Taste Of ZEN

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 日本の都会では、あちこちで外国人の姿を見るようになった。
 原宿やら銀座では、明らかに観光客とおぼしきたくさんの外国人が歩いている。
 中には、しっかり日本に定住しているような感じの人もいる。

 いつからそんな情景が当たり前になったのか。
 少なくとも、15~16年ぐらい前だったら、まだ商社マンとか技術者以外で、日本で暮らす外国人の姿を見るなんて珍しいことだった。

 しかし、今は外国人夫婦が、当たり前のようにスーパーで食材を買っているし、公園の広場では外国人の子供たちがサッカーボールを蹴ったりしている。

 現に、私の近所でも、歩いて50m圏内に、ここ1年で家を持った外国人家庭が二つもある。
 うちの隣の家もその一つ。
 フランス人の家庭で、中学生くらいの美少女と、小学生ぐらいの美少年の子供がいる。
 お父さんが何やってんのか知らないけれど、テニスボールのいっぱい入った袋を抱えて自転車などを漕いでいるところをみると、テニスのコーチかなんかやってんのかもしれない。

 昨年のクリスマス。その家族がフランスに一時帰国するというので、飼っていたネズミ … ハムスターっていうの? 3cmほどの灰色のネズミ。
 そいつを1週間ほど預かったことがある。

 私はフランス語はしゃべれないけれど、(英語もあんまりだが …)、彼らは日本語を流ちょうにしゃべるので、すれ違って挨拶するときにドギマギしないですむ。

 たいした町に住んでいるわけじゃないけれど、駅前の小料理屋、レストラン、中華食堂なんかでも、外国人家族が食事したりしている光景をよく見るようになった。
 みんな器用に箸を使うんだよな。
 納豆まで食っている人もいた。
 味噌汁まで飲んじゃったりして。
 昔は、そういう特有の臭いがする食事を敬遠する外国人が多かったが、最近は日本固有の食材に抵抗を感じる人も減ってきたようだ。世界的な和食ブームの影響かもしれない。

▼ 典型的な日本人の庶民食物「豚汁定食」

 もう40年ぐらい昔。
 ローマのスペイン広場の階段に腰かけて休んでいたときに、隣に座っていたアメリカ人の青年と一言二言会話を交わし、ちょっとだけ仲良くなったことがあった。
 日本の土産なんかを持っていたら渡してもいいかな … などと思ったけれど、あいにくそんな物を持ち合わせていない。

 ポケットに、小分け袋に入った「味付け海苔」が入っていた。
 旅行中、日本食が恋しくなったときに、ときどきそれを出して食べていたからだ。
 袋から味付けのりを1枚取り出して、青年に渡した。
 
 彼は最初、それを食べられるものだと思わなかったようだ。
 私が、そのうちの1枚を口に入れて見せると、
 「お前は、その黒い紙を食べるのか?」
 とばかりに、まるで手品を見るかのような不思議な顔をしている。

 はて、こういう食材を何と説明したらよいものか。
 海苔、海草 ……。
 そんな単語を思い浮かべてみたが、英語で何といえばいいのか、とっさに出てこない。
 しかたなく、「Taste Of ZEN(禅の味)」と、おちゃらけで説明した。

 東洋の哲学、「禅」の境地を味わう神秘な食べ物。

 そういう冗談を言ったつもりだったが、「ZEN」の意味も分からなかったのか、海苔を噛みしめたアメリカ青年は、なんとも表現のしようのない困惑した表情を浮かべた。
 「これはドラッグなのか?」
 などと尋ねてくる始末。

 おいしいとは思わなかったのか、もう1枚差し出したら、「もういいよ」とばかりに首を横に振られた。

 あれから40年。
 和食レストランで見た外国人家族は、味付海苔を醤油に浸し、白いご飯に載せて、おいしそうにほおばっている。
 海苔を巻いたSUSHI の軍艦なども欧米人の好む人気食材の一つになっているとか。
 
 テレビを観ていたら、イタリアでも和食が大ブームで、海苔などはイタリア人の好きな日本食材の4位、1位は「すし」で、2位は「ゼンパスタ」という食材だと報じていた。
 それが最初は何のことか分からなかったが、なんと「乾燥しらたき」。
 イタリア人はこれをお湯でゆがいて、カルボナーラの味付けで食べるらしい。
 もちろん「ゼンパスタ」の “ゼン” とは、東洋の神秘の哲学「禅」から来ているんだそうだ。
 「Taste Of ZEN」は、40年経ってようやく浸透したことになる。

 他国の文化を違和感なく取り入れることが、その国に対するリスペクトだとすれば、食文化はその中軸を担う。
 はじめて見る食事、それが放つ匂い、舌に載せたときの味。
 食い慣れないものに接したときの違和感というものは、多少なりとも、誰にでもあるだろう。
 
 自分の知らない海外の食材を「食べる」ということは、自分の体内に直接その異文化を取り入れるということだから、生理的な抵抗が生じることだってあるはずだ。
 実際に、昔は、日本のタクアンとか、ヌカ漬け、味噌汁などに接して、顔をしかめる欧米人が多かった。

 だが、相手の国に対するリスペクトが生まれてくれば、そういう抵抗はかなり払拭される。
 日本のローカルフードが世界で認められるようになったということは、やはり、日本をリスペクトしてくれる人が増えてきたということなのかもしれない。

 日本製の自動車や家電、カメラ、時計だけが世界を席巻していた時代は、まだそうではなかった。
 「日本人は安くて耐久性のある機械類を輸出する国」という認知は得られたが、日本文化を評価してくれる人は、よほどの好き者でしかなかった。

 それが、今では、アニメ、少女ファッション、日本食などといったジャパンカルチャーが外国の若者たちの心までがっちり捉えている。

 それらは、みな日本人が自嘲的にいう “ガラパゴス” 文化に過ぎない。
 だが、偉大なガラパゴスは、グローバリズムを圧倒しうることだってありうる。
 つくづく時代の変化を感じずにはいれらない。
 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

Taste Of ZEN への4件のコメント

  1. Take より:

    TV番組でも、ツアー旅行でも、ガラパゴスは人気があります。
    それは独特の進化に興味をもつからなのでしょうね。
    我が家・我が街でも見れるものならわざわざ高いお金を出して極東の国まで来ることはしないでしょう。
    「畳」という床に寝れるんだ。とか、紙でできた壁があるんだ。とか、自分の頭で想像しにくい文化があるからこそ、行ってみたいという欲望が湧くのではないでしょうか?
    そしてご意見の通りリスペクトされるからこそその欲望は増すもので、不衛生であったり危険であったりしたら、そうはいかないのかもしれません。
    一期一会という茶の文化はお会いする人にBestを尽くすその親切さであったり、トイレの神様なんて言う歌が流行るほど隅々まで掃除する生真面目さは、ガラパゴスの進化論が輸出されることは歓迎してもなくしてはいけない文化なのでしょう。

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ
      おっしゃるとおり、実際のガラパゴス島の動植物に世界中の人間が興味を持つのは、独特の進化の系があるからでしょうね。

      我々は、一般的な進化とは異なる進化系を見ると、「取り残されて孤立している」と見なしがちですが、では「一般的な進化とは何か?」を改めて問うてみると、別にそれが価値を持つわけでもないですよね。
      それが「正当」であるわけでもなし。

      生物の進化の歴史をたどってみると、ある時代にもっとも進化した生き物が、何億年という時を経た後は、突然滅びてしまい、ガラパゴス島の動植物のような、その時代の進化に遅れてしまったものが、案外次の時代に生命をつないでいるなんてことはざらに起こったようです。

      「リスペクト」の一要素に、「不衛生ではない」ということを挙げられたのは慧眼であるかのように思います。

      ときどき「文化」とは、衛生観念から来るものではないか、と思うことがあります。
      古代ローマ文化が地中海世界を席巻したのは、上下水道を完備するなどのインフラ整備における衛生観念の徹底性が、けっきょく周辺の異民族国家に歓迎されたからだという説があるようです。

      その点、日本は古代社会から衛生には敏感でしたね。
      たぶん、清らかな水にふんだんに恵まれたという風土のもたらしたものかもしれませんね。
       

  2. 木挽町 より:

    味付け海苔で思い出しました。皆さんもご経験があることでしょう。修学旅行の朝食についていた味付け海苔を食べずに持って帰り、バスの移動中におやつがわりにしたことを思い出しました。クラスの男子のほとんどが同じことやってました(笑)。クルマの世界では、各国のマーケットや法規認証に合うように造りこんでいくことがグローバルなことなのかもしれません。海外のマーケットでは日本仕様では売れません。ハンドルの右左や排ガス規制値、衝突安全関連法規など細部が各国ですべて違います。その開発コストを日本市場で回収している構造なのでしょう。バスやトラックも日本のものは海外では売れません。特に路線バスは完全にガラパゴスでしょう。数十年前に日本の各メーカーが切磋琢磨して市場を開拓し、大市場のアメリカでセグメントを作ることのできた1トンピックアップトラック(ダットラやハイラックスなどの)の市場も今では無くなってしまいました。東南アジアですら乗用車志向の進展とともにピックアップ市場は無くなりつつあります。ダットラらハイラックス、サニートラックなど名車がどんどん無くなっていくのは寂しい限りです。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      いやぁ、味付海苔はおいしいですよね。
      寿司でも “軍艦” はみな美味い。
      おにぎりにも、海苔は欠かせません。

      自動車のレギュレーションが国によって異なるのは、それぞれの風土に規定された交通環境や文化の違い、安全意識の違い、エコロジーへの意識の違いなどによるものなのでしょうね。特に、ディーゼルエンジンの評価に対してなどは、日本とヨーロッパは大違いですものね。
      ディーゼルをもっと進化させれば、ハイブリッドなどと同じような燃費性能を獲得すると思うのですが、その点はどうなのでしょうかね。

      ピックアップトラックが姿を消していくのは、おっしゃるように、本当にさびしい限りです。
      あのスタイルは、“男の子” が(かつては)感じていたカッコいい自動車のひとつのスタイルであったわけだから。
      確かに、キャブオーバー型のトラックに比べれば、構造的に無駄な形ですよね。

      でも、ダットラ、ハイラックス …。カッコよかったよなぁ … 。
      私の最初に乗ったキャンピングカーは、ハイラックスベースでした。

      この前名古屋の金城ふ頭で船積みされていく車を眺めていたら、ピックアップトラックの山でした。東南アジア向けなのでしょうか。
      商用車としては、非効率かもしれないけれど、あの形は残ってほしいと思っています。
       

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