風が甘い季節

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 いろいろな事情があって、ついにこの夏は、どこにも旅行に行く時間が取れなかった。
 夏は大好きな季節で、熱中症で倒れる危険があっても、夏の戸外に出ていくことが無性に好きな自分としては、ちょっと残念でもある。

 しかし、ずっと家に閉じこもってばかりいたわけではない。
 夕方になると、パソコンを見つめすぎて疲れた目を休めるために、自転車を漕いで、家から10分程度の公園まで出かけた。
 ベンチに腰かけて、木立の間を渡る鳥の姿を見つめ、目の前を通り過ぎる人たちを眺める。

 公園の一角には、「ジブリ」の名前を持つアニメーション美術館があるため、休日ともなると、そこを出入りする観光客の姿が途絶えることがない。
 観光バスから降りてくる中国人と思える団体。
 欧米人のカップル。
 オタクっぽい雰囲気を濃厚に秘めた日本人の男の子たち。

 最近は自撮りブームで、自撮り棒を器用に使い、ジブリの建物を背景に自分たちの画像をスマホで写している人々も多い。

 「帰りは吉祥寺にする? 三鷹に出る?」
 「私、吉祥寺でピザ食べたい」
 「いいね、いこいこ !」
 と騒ぐミニスカートやらホットパンツの若い子たちの太ももを、ジジイ特有の嫌らしい目で楽しみながら、出入り口前のベンチに腰掛け、好みの音楽をイヤホンで聞きつつ、ペットボトルの「午後の紅茶」を飲み、煙草をくゆらす。

 人間観察も面白いが、いちばん好きなのは、むしろ人の気配が途絶える閉門後の時間。
 ただの遊園地にしか見えないようなジブリの建物が、突然、アニメの中にしか存在しないような魔法の館に変わる。

 人の喧騒が途絶えると、この世のものとは思えない沈黙が、木立を渡る風とともに空から降ってくる。
 
 今の季節、風がおいしい。
 ねっとりした湿気を含んだ夏の気配がかすかに遠のき、乾いた秋の微風が忍び足で近づいてくる。
 エアコンの冷気とは違った、天然の冷風の心地よさ。
 一年のうちで、もっとも “甘い風” が吹き渡る季節かもしれない。

 クマゼミ、アブラゼミの声に混じって、ヒグラシが「夏の終わり」を告げる。
 陽光が西の空から完全に没すると、一瞬の沈黙に満たされたこの森も、秋の虫たちのコンサート会場に変わる。
 夏が終わると、いつも1年が過ぎていくのが早いと感じる。
  

 
  

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

風が甘い季節 への6件のコメント

  1. 木挽町 より:

    見知らぬ遠くの町に出かけるのも魅力がありますが、住み慣れた町の近くをブラブラするのもいいですね。近くに公園があってうらやましいです。タバコひとつ買いに行くにもわざわざクルマで行くんじゃ面倒ですし、つっかけサンダルで買いに行けるから楽しいのかもしれません。その日の気分でブラブラするってのが最高の旅行かもしれません。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      旅というものが、よく言われるように “非日常の体験” であるとしたら、住み慣れた町の中の “はじめて見る光景” というのも、非日常の体験といえるかもしれませんね。

      たとえば、お祭りの日に、車道が封鎖されて、お神輿が通る。
      そんなささやかな変化でも、見慣れた町が非日常的な光景に変わる感じがします。
      それもまた、小さな旅を体験しているようなものかもしれません。

      私は、雲を見るのが好きなのですが(特に夏の入道雲)、雲って、ときどき山脈のように見えません?
      私の住む関東平野には、視界を遮る山脈というものがないんですが、ときに西側に消えゆく陽光が、雲を山脈の形に浮き上がらせることがありますよね。
      そういうとき、「あ、住んでる町が変わったぁ !」と、旅に出たようにウキウキします。
       

  2. ようこ より:

    町田さん こんにちは

    今週のカリフォルニアは真夏にもどって連日37度ぐらいあり
    節水制限されているので 芝生はどこも茶色に枯れてみじめ
    それにひきかえ 今年の日本は雨が多いですねえ。

    自宅周辺の公園をぶらつく小旅行、旅好き 夏好きの町田さん
    には申しわけないのですが、月末に大旅行に行きます 笑)

    西部から東部、東部からドイツへ
    ドイツを拠点にしイタリア、フランス等をまわる予定です。
    ヨーロッパにある 米軍の基地を最大限にいかしての旅なので
    優雅ではありませんが結婚30周年の記念旅行です。

    このPDFファイルのレポートを書いているのは ドイツ在住の
    若い友人です。
    http://www.apev.jp/news/2014/04/vwe-.html
    VWの電気自動車です。
    電気のキャンピングカーってあるのですか?

    • 町田 より:

      >ようこさん、ようこそ
      月末のヨーロッパ旅行、素敵ですね。正直、うらやましい。
      楽しんできてください。
      いろいろなレポートも楽しみにしています。

      ただ、世界中が異常気象などに巻き込まれそうな昨今です。
      日本は台風による洪水で死傷者なども多数出しました。
      テロの脅威もありますね。
      くれぐれも気を付けて旅を続けてください。

      EVのキャンピングカーは、すでに実験的な試みは始まっています。
      しかし、電源の供給スタンドなど、インフラの普及がもうすこし進まないと、まだ実用に足るものは出てこないでしょう。

      でも、自家発電するハイブリッドキャンパーなどはもう開発されていますし、日本のキャンプ場などにはAC電源を供給するところがたくさんあるので、それをうまく活用するシステムが完成すれば、キャンピングカーとEVの相性はとてもいいような気もします。
       

  3. 木挽町 より:

    ありがとうございます。EVキャンピングカーができたら楽しいですね。リンクを拝見しました。VW主催ってことはスズキの人は行かないんでしょうね(笑)。ブランドは「ものがたり」、製造業は「ものづくり」と言われているように「製品」を「商品」にするにはかなりの努力が必要なようですね。この分野では日本が少しだけ世界をリードしているようです。問題は山積ですが。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      なるほど。
      >>「ブランドは物語」、「製造業はものづくり」。
      それはうまい区分けのような気もします。

      ブランディングというのは、商品に “物語性” を付与することですから、確かにものづくりとはまた別の想像力や企画力が要求されますね。
      「クールジャパン」といわれる分野に属する商品などは、まさに日本が世界をリードし始めた状況でしょうね。
      そういうものに関しては、若い人の感性が大きくものをいう時代が来ているように思います。
       

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