クッキー最後の旅

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 クッキーという犬(初代クッキー)が逝って、この秋で10年目を迎えました。
 キャンピングカー旅行の好きな犬でした。
 思い出して、昔のブログを読んでいるうちに、懐かしくなりました。
 そこで、 2009年2月5日に投稿したものに加筆・修正を施し、再録します。

……………………………………………………………………………
 
 
クッキー最後の旅

 犬と一緒に、東北から北海道を回る2週間ほどのキャンピングカー旅行をしたことがある。
 日本RV協会さんが2005年に主催した『ふれ愛キャンプ in 稚内(NORTH RUN 2005)』というイベントに参加したときのことだ。
 
 
▼ 「NORTH RUN 2005」のイベント風景

   

 行きはカミさんも交えた “3人旅” だった。
 東北道を北上し、北海道に渡ってからは、苫小牧、登別、札幌などを見物しながら、稚内を目指した。

 しかし、カミさんは、用事のスケジュールが詰まっていたため、稚内空港まで来るとイベントには参加せず、飛行機に乗って羽田に戻っていった。
 
 私は雌犬のクッキーを抱いたまま、空の彼方に吸い込まれていく飛行機を見送り、その姿が視界から消えると、犬を車内に入れ、イベント会場に向かった。
 
 カミさんを下ろしたキャンピングカーが走り始めたとき、クッキーは、「さも当然」とばかりに助手席に這いあがり、「これでやっと2人っきりになれたわね」とでも言いたげな目つきで、私を見上げた。
 
 もともと愛人体質の犬であったが、念願の「助手席」を手に入れたクッキーは、“妻の座” を手に入れたごとく喜んでいるように思えた。
 
 

 
 
 私たちが目指した『ふれ愛キャンプ in 稚内』というイベントは、もともと介護犬育成のキャンペーンを兼ねたものだったので、会場には盲導犬、聴導犬などの介護犬のほか、参加者たちの飼っている犬で溢れかえっていた。
 
 

   
 
 しかし、クッキーは、それらの犬が前を駆け抜けようが吠えようが、反応することなく、目を細めて、椅子にうずくまり、芝生に踊る陽の光を眺めるだけだった。
 
 反応が鈍っているのは、年齢から来る衰えというものもあったのかもしれない。
 このとき13歳。
 その3ヶ月後に死期は迫っていたのだが、もちろん、私はまだそれを知るよしもない。
 「また彼女の “犬蔑視” が始まったか」と思った程度であった。
 
 もともと、犬仲間に対しては冷淡な犬だった。
 散歩などに連れていっても、他の犬がまとわりついてくると、体をよじって避け、一歩下がったところから、さげすむように相手を観察するようなところがあった。
 
 その風情が、どこか「馬車の上から浮浪者を見下ろす貴族の令嬢」という感じなのだ。
 そして、声にならない声で、
 「四つ足、おどき」
 と言っているように思える。
 
 

 
  
 もしかしてクッキーは、最後まで自分を「犬」と思わないまま逝ったのかもしれない。
 
 彼女の悲劇があったとしたら、それである。
 
 「私は人間のつもりなのに、なぜ散歩のときに首輪を付けられるのか」
 「なぜ、みんなと同じテーブルに座らせてもらえず、床に置かれた皿でご飯を食べなければいけないのか」
 
 ずば抜けて頭の良い犬だったから、人間と一緒に生きていくことは不条理の連続だったかもしれない。
 
 それでも、人間を楽しませることには気を配る性格だった。
 一度、クッキーが何かの失策を犯したので、怒ったことがある。
 しかし、クッキーにとっては、どこか理不尽な思いがあったのだろう。
 反抗的な顔つきになり、牙をむいて、唸り声を上げた。

 それを見て、カミさんが「オオカミ顔になった !」と笑った。
 私も、つられて笑った。
 そのとき、クッキーは牙をむいて唸ることが、人間を喜ばせることだと即座に悟ったらしい。
 以来、私たちが「オオカミ顔をして」とリクエストすると、クッキーは怒っていないにもかかわらず、牙をむき、唸り声を上げ、私たちを楽しませてくれた。
 
 

  
 
 そんなお茶目をもう見なくなって、久しい。
 この北海道に来てからというもの、じっと椅子の上に体を横たえていることが多くなった。
 長旅は人間をも疲れさせるが、犬にも疲れが出たのかもしれないとも思った。 
 
 

  
 
 イベント会場となった稚内の空には、8月の初旬だというのに、「秋」が迫っていた。
 ウロコ雲が、真っ青なキャンバスにハケで掃いたような白い筋を残し、その下を赤トンボがたくさん舞った。 
 クッキーは、そのトンボの飛翔を物憂げな目で追い、それ以外は、あいかわらず、チェアに身体を沈めたまま、居眠りして時間を費やした。
  
 
 イベントの中日ぐらいに、港で花火大会があった。
 私は、クッキーをキャンピングカーの車内に残したまま、1人で街に行き、銭湯で身体を洗い、居酒屋で湯上がりのビールを飲み、港の花火を見物した。
  
 港の周辺は見物客でにぎわっていたが、一歩さがった街の路地裏はみなシャッターが下りて、人影もまばらだった。
 
 8時半ごろ、フェリー乗り場の埠頭あたりから花火が打ち上げられた。
 明らかに観光客と分かる両親が小さな子供の手を引いて、岩壁近くの見やすい場所に移動する。
 移動するのが面倒くさい地元のカップルは、地べたに腰を下ろしたままポテトチップスの袋を破る。
  
 

 
 
 花火は都会的で洒落ていた。
 乱れ散る閃光が、その向こうに広がる街の明かりと共演して、夜の海をにぎにぎしく飾った。
  
 しかし、時間は短かった。
 30分ほどだったろうか
 なんのアナウンスもなく終了した。
 
 地元の人たちはその呼吸が分かっているのか、立ち上がっていっせいに帰り始める。
 それにつられて、観光客たちも立ち上がる。
 稚内市が花火大会に組める予算では30分が限度だ、という話を後で聴いた。
 
 北国の夏のように短い花火。
 でも、だからこそ、そこに存在する鮮やかな夏。
 
 
 自分のキャンピングカーに戻って、クッキーに花火大会の様子を話す。
 「きれいだった?」
 と、その目が問う。
 
 「ああ、とってもね。でも少し時間が短かったな」
 「そう。また来ればいいのよ」
 「そうだね。そうしよう。おやすみクッキー」
  
  
 
   
  
 「NORTH RUN」のイベントが終わって、私とクッキーは道東周りで苫小牧を目指すことにした。
 左ハンドルのクルマだから、東回りのコースを南下すれば海を眺めながらのドライブになる。

 見事なくらい何もない風景が続く。
 左手にはのどかな海が広がり、右手には、牧草地がとりとめもなく伸びていく。
 どこまで走っても、舗装のへたった一本道と、風で電線が揺れる電信柱が続く。
 クッキーはそんな単調な景色に飽きたのか、身体を丸めて助手席でうつらうつら。
 
 
▼ 昼でもほとんど対向車のない一本道が続く。

 
 
 「またクルマが1台も止まっていない道の駅があったよ。クッキー」
 「そう。疲れたら休んでいいのよ」
 「大丈夫。もう少し走るよ」
 
 
 上湧別の道の駅で、イベントに参加していたフリーダムに乗ったご夫婦と 3回目の出会いを迎えた。
 
 「今晩は上湧別の温泉に泊まる」と夫婦はいう。
 「じゃお気をつけて。またどこかでお会いできたら」
 
 そう言って別れ、私たちは内陸部に入った。
 
 途中のコンビニで簡単な食材を整え、泊まるのに適した場所を見つけては、夕方の散歩に連れ出す。

 クッキーはもう走らない。
 若い頃は、飼い主を置き去りにするほどの脚力を誇り、一時は自転車に乗らなければクッキーに追いつけなかった。
 
 

   
 
 しかし、今は歩調もおっとりしたものになり、身体を休めるように立ち止まることが多くなった。
 そして、道の草花を眺め、匂いを嗅ぎ、周囲の音に耳を澄ませている時間が長くなった。
 
 いま思うと、間もなく自分の前から消えゆこうとしている地球上のあらゆるものを、自分の記憶に刻み込もうという気持ちだったのかもしれない。
 
 
 夜。人気のない道の駅にひっそりと車を止め、カーテンを閉めて、2人だけの夕食を取る。
 
 

 
 
 「チーズありがとう。あなたも少し食べる?」
 「いや、いいよ。それはお前に与えたものだ。しっかりとおあがり」
 
 「私はお腹がいっぱいになったから。いいの」
 「食が細くなったね。スタイルを気にしているな」
 
 「私きれい?」
 「ああ、きれいだよ」
  
 

 
 
 私とクッキーは、そんな道東回りの旅を続け、5日後に家に戻った。
 
 クッキーが亡くなったのは、その3ヶ月後だった。
 
 カミさんがしみじみと言う。
 「あの子は、あなたと 2人だけの旅を心ゆくまで楽しんだのね。良かったわ」
 「最後の旅になるとは思わなかったけれど、クッキーにとって良い思い出になったのかなぁ」
 「きっと満足して逝ったわ」
  
 あれ以来、カミさんが助手席に乗らないキャンピングカーの一人旅をしていると、いつもそこに、背中を丸めて居眠りしているクッキーがいるような気がする。
  
  
関連記事 「クッキー最後の秋」
  
  
なお、このときの旅の印象から、思いついた小説があります。
(↓)
『ひとり旅同士』
  
  

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クッキー最後の旅 への10件のコメント

  1. kono より:

    クッキーの
    この話が大好きです
    プリンもクッキーの年齢になってしまった

    • 町田 より:

      kono さん、ようこそ
      犬の寿命が人間より短いということは、飼い主にとって、とても辛いものですね。
      生きている時間が短いならば、せめて日々の暮らしの中でたっぷり愛情を注ぎたいとも思うのですが、日々の忙しい生活に追われてしまうと、ときどき犬への気配りもおろそかになってしまうこともあります。
      クッキーが元気なときは、ちょうどこちらも一番忙しいときだったので、死んでから少し後悔しています。

      プリンちゃんが、どうかいつまでも元気でいられますように。
       

  2. かたなねこ より:

    もう10年経つんですね、クッキーさんにお会いしたのは一回だけでした。
    我家の長女は年が明ければ13歳、この一カ月入院、病院通いをしています、入院時には、何時もニコニコしている獣医が険しい顔して緊急連絡先の確認されて・・・ ここ数日は普段と変わらない感じに戻ってきました、でも13歳になると言う事は変らないんですよね。
    長女はツンデレの本妻、次女は保護犬上がりと言う事もあって、すがりついて来る愛人体質かな(笑)

    • 町田 より:

      >かたなねこ さん、ようこそ
      犬の13歳は、人間の年齢に換算すると、78歳ぐらいになるそうです。

      小型犬の年齢は、「犬年齢- 1×5+18」
      大型犬は、「犬年齢- 1 ×6 +18」だとか。
      喜連川ファミリーキャンプ場の管理人である栂野さんという方が教えてくれました。

      “ツンデレ本妻” である長女さんが、これからも末永く元気でいてくれるよう、こちらもお祈りしています。
       

  3. 木挽町 より:

    我が家にもゴールドのミニチュアダックスがいたので楽しく読ませて頂きました。かわいくて勇敢だったんですね。ありがとうございます。

    少し話は変わってしまうのですが、文中のお写真にあるような「昼間でもほとんど対向車が来ない一本道」では下記のようなものは使えるんでしょうか?韓国サムスンが開発しているみたいです。キャンピングカーユーザーの方々は無理な追い越されや追い越しの経験も豊富なことと思いますのでコメント頂けたらと。

    ご覧ください https://www.youtube.com/embed/ZetSRWchM4w?rel=0

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      リンクを貼ってくださったYOU TUBEのトラックの画像。
      見て、びっくりです。
      こういうトラックは、すでに海外ではそうとう普及しているのでしょうか。
      日本では見かけたことがありませんので、新鮮な驚きとともに食い入るように眺めてしまいました。

      実際、大型トラックを追尾して走っているとき、前方視界が塞がれてしまうことが一番の不安ですよね。
      それを解消するためには、無理してそのトラックを追い越すか、あるいは車間距離をそうとう取るか。

      幸いなことに(?)、キャンピングカーの場合は、強引な追い越しをかけられるほどのパワーや走行性能を持ったベース車が少ないので、車間距離を取るしかなく、結果的に安全運転になります。
      もちろん、乗用車に負けないパフォーマンスを発揮するキャンピングカーもありますけれど、幸いなことに(?)、私の車はそういうこともなく、結果的に安全運転になります(笑)。
       

      • 木挽町 より:

        的確なコメントありがとうございます。リンクを貼っておきながら恐縮ですが私自身もはじめて見たものです。びっくりしました。実際に町で走っているのは見たことがありません。アイデアとしては理解できますし、液晶画面を大量に使うので分からないではないのですが、いかんせん本当に商品化できるのかは???です。法規で装着義務化すればともかく、普通のユーザーがわざわざ後続車の視界確保のために自分の車に費用をかけて装着するってのは現実的ではないでしょうね。液晶の耐久性や石跳ね、振動耐久性など、品質向上すればするほど高価になりますし。積載荷重もその分減るし、あまりいいことは無さそうです。ありがとうございました。

        • 町田 より:

          >木挽町さん、ようこそ
          おっしゃるとおりですね。
          こういう装置を実用化するとなると、クリアしなければならない課題もそうとう多そうだし、実用化されたとしても、おっしゃるように、かなりのコスト高が予想されますから、プライスも高くなりそうですね。

          ただ、別のものに応用できるのではないかな。
          たとえば、マラソン中継で、よくランナーの間にカメラ車が割り込んできますけれど、あれって走者にとってはかなり邪魔じゃないかしら。
          そんなときに、自分の走っている向こう側が確認できると、走者もありがたいのではないかな … などと思うのですけれどね。
           

          • 木挽町 より:

            なるほど。マラソンの中継車としてのニーズですね。いいかも。2020年のオリンピックがあるし、各都市での市民マラソンとかでも地方局の中継車が走ってるし。レンタルでもいいし。競歩でも使えるし。そこそこの台数になりそうな気もしますね。個人相手のビジネスではなく自治体とか番組製作会社とのビジネスだから予算さえついちゃえば多少高くてもいいですしね。ひとつのビジネスプランとして成立性を考えてみるのもおもしろそうですね。せっかくのアイデアですから町田さん名義で特許申請しといたほうがいいと思いますが、サムスンが持ってる(?)特許権の内容にもよるかなあ。

          • 町田 より:

            >木挽町さん、ようこそ
            「マラソンの中継車」というのは、あくまでも、素人がパッと頭に浮かんだものをそのまま書いてしまったもので、ほんとうにそういうニーズがあるのか、技術的な対応が可能なのか、実はあんまり深く考えてはおりません。

            にもかかわらず、その先のアイデアまで展開してくださるとは嬉しい限りです。
            実際に、マラソン中継車などの特装車を手掛けているビルダーさんもいらっしゃるので、そういうところが「中継車の新しいアイデア」としてプレゼンしてみるのも面白いかもしれませんね。

            まぁ、ただの素人の思いつきなので、とても “特許” などというおこがましいことまで考えていませんが … (笑)。
             

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