浅草武シート「武キャンパー」

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こんなキャンピングカーもあったんだ ! 第5回 

日本風ゴージャス

武キャンパー
開発・発売 浅草武シート
1994年情報


 
 「武キャンパー」というバンコンは、自分がキャンピングカーの仕事を始めるようになって、はじめて取材した車である。
 20年ぐらい前の話だ。

 そのすぐ後に、三菱商事やトーメンに行って、輸入モーターホームの豪華絢爛さに度肝を抜かれることになるのだが、はじめて接した武キャンパーの内装を見ただけで、もう目がくらくらした。
 「高級クラブじゃん !」
 と思った。

 キッチンや冷蔵庫を見ても、「家じゃん !」とは思わず、「クラブじゃん !」と思ったのは、当時まだあまり高い飲み屋に行くほどのお金もなく、たまに先輩に連れていってもらったり、接待に招かれたときに経験している高級クラブが、みなこのような天井や壁のようなインテリアで仕上げられていたからだ。



 
 
 武キャンパーの内装も、それに近い雰囲気だった。
 ボタン絞りの天井やシート。
 金モールをあしらった戸棚の扉。
 薄いパープルに染められたインテリアカラーも、ナイトクラブを訪れたときのような非日常的な夢幻感覚を漂わせていた。 

 そういう高級な飲み屋に行くことは、わくわくする体験だったから、武キャンパーの内装を見たときも、わくわくした。
 その取材記事に、自分はこういう表現を与えている。

 「インテリアのクオリティーは目を見張るほど高い。贅を尽くした高級な素材を惜しみなく使い、熟練した職人が精魂込めて作っている」
 
 自分が最初に接したキャンピングカーの印象を正直に書いたつもりであったし、今でもその思いは変わらない。

 ただ、取材に立ち会ってくれた武シートの担当者は、あとでその記事を読んで、苦笑された。
 「そんなご大層なものじゃありませんよ。確かに一生懸命作っているけれど、ヨソ様に比べて、特別に変わったことをしているわけじゃない」

 担当者は、落合弥太郎さんという方であった。
 当時、すでに60歳を超えられていらっしゃったと思う。
 温厚な感じながら、職人に徹した人生を歩んでこられた風貌の持ち主であった。

 「私たちが、最初にキャンピングカーを手掛けた27年前は、まだ “キャンピングカー” といっても、ほとんどの人が知らない状況でね。なにしろ、そんなものは誰もが見たことがないんだから」
 と彼は語った。
 
 94年当時から、さらに「27年前」ということは、1967~1968年頃の時代を指す。

 その頃、キャンピングカーを開発しようにも、日本にはお手本になるような実物がなかったという。
 「そこで、アメリカからキャンピングカーの雑誌を送ってもらいましてね。それを眺めながら、見よう見まねで作り始めたことを覚えていますよ」
 と、落合さん。

 とは言いつつも、すでにベース車となるシャシーが日本とアメリカでは違うので、日本でベストサイズと思えるワンボックスカーを使うとなると、架装の基本から異なっていることを思い知らされたという。

 アメリカンモーターホームのゴージャスなインテリアを、日本のワンボックスカーにそのまま移植するわけにもいかない。
 家具の形や素材感、その色目などは、それを収める “箱” の容量によって大きく印象が変わるからだ。

 ハイエースやキャラバンといった日本独自のサイズを持つ車両に、いかにしたらアメリカの匂いがする贅沢感や豪華感を盛り込むことができるか。 
 たぶん、試行錯誤の連続だったことだろう。

 国産キャンピングカーが、日本的なゴージャズ感を演出するためには、とりあえず高級ナイトクラブのような、家庭の匂いから遠く離れた夢空間を手本にするしかなかったともいえる。

 落合さんの話によると、武キャンパーという車は、最初に作られた1960年代当時の架装構造と内装仕上げからそれほど変わっていないという。

 どうりで、私が見たこの車のインテリアには、どこか60年代風のノスタルジーが漂っていたわけだ。
 
 1960年代といえば、日本は高度成長の興隆期に当たる。
 郊外に団地が建ち並び、サラリーマンたちは、どこの棟も同じように作られた団地に家族を残して、満員電車に揺られ、都心の職場に働きに出た。

 そのサラリーマンたちが、週末に、たまに職場の同僚たちとはめを外して豪遊する場所が、妖艶な女性が出迎えてくれる高級ナイトクラブ。
 そこで目の前に広がる夢空間のインテリアは、家族の待っている団地の部屋とはどれほど異なっていたことか。
 まさに、竜宮城に行った浦島太郎の気分だったのではなかろうか。

 日本風の「豪華なインテリア」のイメージが、そのときにでき上がってきたことは想像にかたくない。
 
 ナイトクラブ的豪華感は、やがて地方にも拡散し、地方都市に次々とオープンしていった高級スナックに採り入れられていく。
 今の私たちは、そういう内装を侮蔑的に笑うけれど、それが、まぎれもなくその時代に庶民が感じる「ゴージャス感」のベースになっていたことは否定できない。

 そして、先輩たちにそういうところで遊ばせてもらった若者たちが、後にその内装テイストを自分のカスタムカー持ち込んでいくようになる。

 だから一時期のカスタムカーを彩ったシャギー絨毯やチンチラの壁紙、シャンデリヤといった内装は、高度成長期の日本人の上昇志向をそのままなぞった明るく、健全な好みだったのだ。
 それは、汗水垂らして働く男が、最愛のガールフレンドと一緒にオフの時間を楽しむ「充電空間」であった。

▼ カスタムカーの内装。ケバいというよりポップな印象。
今だとペコ&リュウチェルの愛車だといっても通りそうだ

 今、この時代の国産キャンピングカーを思い出してみると、基本的に内装の雰囲気は、どこの会社のものもそれほど違ってはいない。
 一部、ヨーロッパのライモ家具を導入していたバンテックのものが多少毛色が変わっていた程度で、「豪華感の演出」という意味では、みな同じ志向性を持っていた。

▼ 当時のバニングやカスタムカーによく見られた日本的ゴージャス感

 
 
 もっとも、この武キャンパーも、翌1995年からは、作りがガラッと変わる。
 担当者が変わり、それまでの顧客のオーダーを受け入れながら改造する方式から、キットによる定番化を図り、コストダウンを実現。ベーシックなものでは、300万円を切る288万円というプライスを掲げた。

 もともと同社は、自治体や企業向けの特装車両を手掛けていた会社だったから、ロープライスを打ち出したとしても、家具・装備のクオリティを落とすことはなかった。
 そして、キット化によって実現された新しい家具は、ずいぶんモダンになったものだと思った。 

 武キャンパーの転身は、国産キャンピングカーの内装が節目を迎えたことを物語るものだったのかもしれない。
 
  
TAKE camper information 1994年情報

コーチビルダー 浅草武シート(タケ・クラフトコーポレーション)
ベース車両 トヨタ・ハイエースロングバン
乗車 7名/就寝4~5名
全長4690mm/全幅1690mm/全高2480mm
エンジン 3L型ディーゼル
排気量 2779cc
最高出力 91ps/4000rpm
最大トルク 19.2kg-m/2400rpm
ミッション 5速AT
当時の価格 3,800,000円

標準装備(一例)
オリジナルハイルーフ/床クッションフロア張り/対座式ソファ&ベッド/ギャレー(シンク&下部収納庫)/脱着式テーブルセット/オールカーテン加工/リヤ温水ヒーター他
 
 
シリーズ こんなキャンピングカーもあったんだ !
 
 
第4回「アストロスター」
 
第3回「エクスクルーザー」
  
第2回 「スミティ」
 
第1回 「ㇾブコン 6×4」
      
 

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