サザンロックの誘惑

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「一番好きな音楽ジャンルは?」
 …… と問われれば、やはり1960年代から1970年代初期にかけてのSOUL MUSICと、BLUESである、と答えざるを得ない。
 これは、もう趣味の領域を通り越して、「信仰」である。

 しかしもう一つ、「好きな音」として、どうしても外せない音楽がある。
 それが、1970年代初頭に、アメリカ南部で流行っていた白人ミュージシャンを主体としたROCKなのだ。

 Z.Zトップ、レーナードスキナード、マーシャルタッカーバンド、オールマン・ブラザーズ・バンド。
 そういったテキサス州、フロリダ州、ジョージア州に拠点を置いたROCKバンドが、当時「サザンロック」と呼ばれる独立したジャンルを形成していた。

▼ The Allman Brothers Band

▼ Lynyrd Skynyrd

▼ The Allman Brothers Band 「Can’t Lose What You Never Had」 1975のアルバム『Win, Lose, or Draw』より

 なぜ、この手の音に惹かれたのか。
 実は、自分でもそのきっかけは、詳しくは思い出せない。
 あるとき、気づいたら、その手のアルバムがどんどんレコード棚を占めはじめていたといった感じであった。

 これらの音は、私が愛していた黒人文化の生み出すSOUL MUSICやR&Bの対極にあるような音で、(一部BLUSEで接点はあるが)、どちらかというとカントリー&ウエスタンなどと親和性の高いものも多く、はっきり言って、最初は毛嫌いしていた。

 音から受ける印象は。荒っぽくて、雑で、投げやりで、怠惰。
 ボーカルも “ウマヘタ” の感じ。
 たまにハモッても、音程が取れているのやら、外れているのやら … 。
 まさに、都会的な洗練さをきわめた70年代SOULの対極の音がそこにあった。

 しかし、不思議なもので、その独特のルーズさが、あるとき無性に心地よく響いてきたのだ。

 「サザンロック」は、音の豪快さが売り物だと、よくいわれる。
 確かに、オールマンのように、ツインリードギター&ツインドラムス編成であったり、レーナードスキナードのようにトリプルギター編成であったり、音の分厚さが彼らのROCKの特徴をなしている。

 しかし、私が感じたのは、たとえばオールマン・ブラザース・バンドなどがかもし出す分厚い音の壁の隙間からかすかに鳴る「乾いた荒野の風」の気配だった。

 土埃や、砂埃の匂い。
 肌を焼き尽くす日光の感触。

 彼らの音を聞くと、陽の照りかえる田舎道をあてどなく走っているときの空気の匂いが、“投げやり感たっぷり” のリズムに乗って肌にまとわりついてくるように感じる。

 この “投げやり感” を、当時の音楽用語で「レイドバック」といった。
 サザンロックというのは、このレイドバックフィールをたっぷり染み込ませた「乾いた荒野の音」だといっていい。

 そう思うと、センチメンタリズムの香りが一つもない彼らの荒っぽい音にこそ、アメリカ人が抱え込んでしまった “閉ざされた内陸” の孤独感がにじんでいるように聞こえてくる。


 
 
 しばらくそういった音から遠ざる生活を送っていたが、この4月27日、WOWOWの「洋楽ライブ伝説」という番組で、ディッキー・ベッツ&グレイト・サザンが2004年にオハイオ州クリーブランドで行ったライブを観て、久々に熱い思いに満たされた。

 ディッキー・ベッツ(写真下)は、サザンロックの代表的なグループである「オールマン・ブラザーズ・バンド」でリードギタリストを務めた人物である。

 このオールマン・ブラザーズ・バンドというのは、わずか24歳で死亡した伝説のギターリストであるデュアン・オールマンが率いていたバンドとして知られている。
 デュアン・オールマンは、ローリングストーン誌の選ぶ「史上最も偉大な100人にギタリスト」において、2003年に第2位に輝いたこともある人で、それがゆえに、バンド内のもう一人のギタリストであるディッキー・ベッツの名は、デュアンの陰に隠れて目立たなかった。

▼ デュアン・オールマン

 しかし、知る人ぞ知るギタリストとして、ディッキー・ベッツの才能を評価するファンもけっこう多い。

 かくいう私も、実はその一人。
 ある意味で、ディッキー・ベッツのギターの響きこそ、私にとっての “オールマン・ブラザースの音” なのだ。
 
▼ The Allman Brothers Band 『Brothers And Sisters』(1973年)

 彼らのアルバムのなかで、私の最大の愛聴盤は何かというと、真っ先に挙げたいのが1973年の『ブラザーズ&シスターズ』。それに続いて好きなのが、1975年の『ウィン・ルーズ・オア・ドロウ』なのだが、この2枚は、実質的にディッキー・ベッツのアルバムといってもよいくらいだ。

▼ The Allman Brothers Band 『Win, Lose, or Draw』(1975年)

 ディッキー・ベッツのギターは、明るい。
 もともとカントリー&ウエスタンテイストが好みの人らしく、彼の代表作としてオールマン時代から知られている「ブルースカイ」などは、もろにカントリー&ウエスタンである。

▼ Dickey Betts and the Great Southern「Blue Sky」 。WOWOWで放映されていた2004年のオハイオ州クリーブランドで行ったライブバージョン(約10分)
 
 
 しかし、なんといってもディッキー・ベッツの代表曲といえば、やはり1973年のアルバム『ブラザーズ&シスターズ』に収録された「ジェシカ」ではなかろうか。 

▼ The Allman Brothers Band 「Jessica」

 この曲に関しては、YOU TUBEにもさまざまなバージョンがアップされているが、自分はやはりオリジナルアルバムのスタジオ収録版がいちばん気に入っている。
 なぜかというと、ピアノを担当しているのがチャック・リーヴェルという名キーボードプレイヤーであるからだ。

▼ チャック・リーヴェル

 これは、名曲である。
 まず、ディッキー・ベッツが華麗なギタープレイでメインテーマを奏で、そのあとに即興プレイのソロが続く。
 演奏の半ば、ディッキー・ベッツのソロを引き継ぐ形で、チャック・リーヴェルの炎のようなピアノパートが展開される。
 このときのピアノがほんとうに素晴らしいのだ。
 
 ハイウェイの疾走感。
 20世紀の感覚でいえば、そういう表現でも合いそうだが、19世紀的な感覚でいえば、4頭立てぐらいの駅馬車の疾走感といえばいいのだろうか。

 要は、生物の激しい息づかいが伝わってくるような、「生命の燃焼」を伝える演奏なのである。

 馬たちのせわしない筋肉の動き。
 飛び散る汗。
 そんな駅馬車の疾走感が脳裏に浮かんでくる。

 自動車にたとえるなら、レシプロエンジンのピストンの上下動だ。
 そんな力動感が、聞いている人間の血管をほとばしっていく。
 こんなにアドレナリンが噴出するようなインスト曲というのも、そう滅多にあるものではない。

 で、このチャック・リーヴェルのピアノソロがトップスピードに達したところで、再びディッキー・ベッツのソロにギアチェンジ。
 そこからが最後の加速 !
 エクスタシーは、もう寸前だ。
 

 
 2004年のクリーブランドのライブでは、さすがにこの迫力はなかった。
 ディッキー・ベッツのソロプレイは相変わらず冴えわたっていたけれど、キーボードがチャック・リーヴェルではなかったせいもあるかもしれない。

 「ジェシカ」という曲は、アルバムでは7分30秒なのだが、最高の聞かせどころは、チャック・リーヴェルのピアノソロからディッキー・ベッツのギターソロに移る瞬間の、“あの5秒” に凝縮している。
 そういう曲なのだ。
 
 
 なお、チャック・リーヴェルは、オールマン・ブラザーズ・バンドを離れた後は、「シー・レヴェル」という自分のバンドを結成。その抜群のテクニックを生かしてジャズ/フュージョン寄りのサウンドを特徴とするアルバムを残している。

▼ Sea Level 「Sneakers (Fifty-Four)」

  
  
参考記事 「内燃機関の鼓動(オールマン・ブラザーズ・バンド)」
 
 

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