老人漂流社会

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NHKスペシャル「団塊世代、しのび寄る “老後破産”」
 
 世代論が議論されるとき、今までとかく目の敵(かたき)にされていた団塊世代。

 「高度成長の波に乗った現役時代に贅沢の限りを尽くし、引退後は年金をたっぷり支給され、何一つ不自由することもなく、気楽な気分で老いていく世代」

 ちょっと前までなら、「団塊世代」は下の世代からそのように見られ、妬まれたり、反感を買われたりすることも多かった。

 しかし、内閣府などの調査によると、団塊世代は「豊か」であるどころか、“老後破産” の憂き目に遭っている悲惨な世代であることが次第に浮き彫りになりつつあるという。

 先日、テレビの深夜番組を取りとめもなくザッピングしていたら、そのことを伝える「老人漂流社会『団塊世代 しのび寄る “老後破産”』 」という番組のところで、コントローラーを持つ指が止まった。

 NHKスペシャルとしてシリーズ化されたものらしく、そのうちの「団塊世代にしのび寄る “老後破産” 」という1作も、2016年4月17日(日)に放映されたものを再放送したものだった。 

 「老人漂流」
 「老後破産」

 それにしても、なんとも老人に対してむごい言葉が並んだものである。
 最近は「下流老人」だとか、「暴走老人」、「キレる老人」など、やたら老人を深刻な社会問題として捉える報道が多い。
 
 それだけ、いよいよ老人人口が増えてきたわけで、人口が増えれば問題も増えてくるということなのだろう。
 
 
団塊世代は「全共闘世代」でも「ビートルズエイジ」でもない

 では、団塊の世代とは、どういう人々なのか?
 1947年~1951年に生まれた人たちで、年齢的には、現在65歳から69歳ぐらいの人のことをいう。

 昭和40年代(1965年~1975年ぐらい)に、集団就職列車などに乗って地方から大都市に移住し、首都圏近郊に建設された大規模団地などに住んで家庭を築いた人たちといっていい。

 俗に「全共闘世代」とか「ビートルズエイジ」などと呼ばれることもあるが、今はそういう表現が誤解であるという認識も浸透してきた。

 というのは、大学まで進学できた団塊世代の人は2割ぐらいに過ぎず、さらに学生時代に全共闘などに加わった人は、そのまた2割にも満たない。
 多くの団塊世代の人にとって、学生運動などに関わる人種は親のスネをかじった甘えん坊に思えただろうから、彼らは、同世代のそういう仲間にそれほどシンパシーを抱いたこともなかったはずだ。

 また、団塊世代が若いときに聞いた音楽も、ことさらビートルズに限定されるわけではなく、むしろ多くの人にとっては、石原裕次郎や小林旭、あるいはムード歌謡とかグループサウンズの方がなじみやすかったはずである。 

 というように、世代的にも文化的にも “昭和の申し子” のような団塊世代だが、NHKの『老人漂流社会』によると、現在の団塊世代は、その世代を挟んだ二つの世代にサンドイッチされて、ヒーヒー悲鳴を上げているというのだ。
 
 
上の世代と下の世代板ばさみ

 二つの世代とは何か?

 一つは、彼らの親世代。
 日本は世界でも類例を見ない高齢化社会へ突き進んでおり、しかもみな長寿になった。
 そのため、60代後半に達した団塊世代は、みな80代後半から90代の親を介護しなければならなくなったのである。

 80代後半から90代というと、なかには認知症がだいぶ進んだ老人も出てくる。
 そのため、彼らの世話をする団塊世代も、プロの介護人や介護施設の助けを借りなければならないわけだが、それには費用がかさむ。
 そのため、ヘルパーさんに援助してもらう時間を減らしたり、デイサービスの回数を減らしたりして、貯蓄防衛に回る人も増えてきた。

 番組で紹介されていたある68歳の男性は、自分の老後のために2000万円の貯蓄を持っていたが、認知症を患った母親(91歳)を自宅介護するようになってから、5年間ですでに400万円を切り崩してしまったという。

 「貯えのあるうちはいいが、それが無くなったときは人生も終わり」
 と、その男性は、テレビカメラの前にさびしそうな笑顔を向ける。

 しかし、貯えのある人は、まだいい。
 内閣府の調査によると、現在2000万円以上の貯蓄を持っている人は23%だそうだが、貯蓄が100万円にも満たない人も、20%ほどいるというのだ。

 団塊世代というと、日本が豊かな時代の恩恵をたっぷり受けた人たちという印象が強いが、世代別賃金を見てみると、彼らより上の世代ほどには豊かではない。
 上の世代が退職するまで賃金が上がり続けたのに対し、団塊世代は、40代半ばから賃金が下降線をたどり、老後の貯蓄を築くことができなかった人も多いのだ。

 彼らが40歳代半ばに達した頃に、日本のバブルが崩壊した。
 それまで右肩上がりの給料体系に恵まれ、サラリーマンながら一時は年収1000万円などという高給を誇った団塊世代ではあったが、バブル崩壊で賃金は頭打ちとなり、その後は下がり続ける一方。彼らが50代になった2002年になると、10人に1人がリストラされるという憂き目に遭った。
 
 そういう自分の老後の貯蓄を十分に築くチャンスを持たなかった団塊世代に対しても、親を介護しなければならないという試練は容赦なく襲う。
 
 現在、日本の団塊世代の人口は、約1000万人だといわれている。
 それに対し、団塊世代の親の人口は、180万人。
 およそ団塊世代の10人のうちの2人が高齢化した親の介護をしなければならなくなってきたわけだ。

 彼らに降りかかる負担は、親の介護だけではなかった。
 団塊世代は、自分たちの子供に対しても、支援の手を差し伸べなければならなくなってきているのだ。

 現在、「第二次ベビーブーム」といわれた時期に誕生した団塊ジュニアは790万人。団塊世代に続くボリュームゾーンを形成している世代だが、この人たちは社会に出ようとするときに “就職氷河期” に直面し、不況の波をもろにかぶった世代であった。
 そして、今もそこから脱出できず、経済的に親に依存している人も多くいる。
 
 現在35歳から44歳の人で、いまだに親と同居している人の数は308万人。
 そのうち、失業などによって生活の大半を親に面倒を見てもらっている人が62万人。
 その数に、非正規雇用のような収入の不安定な子供を合わせると、その数は113万人になるという。
 
 
グローバル資本主義時代による雇用の変化

 その世代に、なぜ十分な職場が保証されないのか。  

 ひとつには、日本の大手優良企業が、グローバリゼーションの波を乗り切るために生産拠点を海外に移す過程で、外国の “低賃金労働資源” を得ることができたため、今さら人件費の高い日本人の若者を必要としなくなってきたという理由がある。

 現地生産のメリットは、安価な労働力に頼れるという面のみならず、企業幹部を探し出すときも、ハングリー精神に満ちた海外の若者の方が知能的にも洗練され、労働意欲も高いという事情も絡む。

 自国の労働者を持て余し始めたのは、日本に限らずグローバル資本主義時代の通例で、アメリカやEU先進国も共通した傾向を持ち、そのため失業率の上昇、経済格差の拡大といった問題を抱えるようになってきた。 
 
 世の中は、知的洗練を極めた少数のエリート予備軍の若者と、それを支える多数の低賃金・低スキル・重労働を強いられる若者に2極分解され始めているといえよう。

 そういうように、雇用が不安定になってきた日本の若者たちをも団塊世代は面倒を見なければならなくなってきており、それに関して専門家たちは警鐘を鳴らす。
 
 
団塊世代は日本の家族を守る最後の砦(とりで)
 
 番組に登場した放送大学の宮本みち子教授は、こう語る。
 
 「大事なのは、団塊ジュニア世代の社会的手当をもっと充実させていくこと。(もしこのままの状態が続き)団塊ジュニア世代が、さらに親たちの世代に依存しなければならなくなると、やがて団塊世代はその重圧に押しつぶされる」
 
 そうなると、それは “日本の家族の崩壊” につながる。
 現在、日本の家族崩壊を防いでいるのは、親と子供の両方の世代の面倒を見ている団塊世代にほからなない。
 そういった意味で、団塊世代は “最後の砦” 。
 彼らがつぶれてしまえば、日本には家族の絆から切り離されて生きられなくなる人がそうとう出てくる。
 
 というのが、宮本教授の観測である。
 
 また、同じ番組に登場した「みずほ情報総研」の主席研究員である藤森克彦氏は、次のように語る。
 
 「団塊世代を中心に、日本に “一億総中流社会” が訪れたというのは、もう過去の幻想である。今や団塊世代ほど経済格差が広がっている世代はほかにない。この世代を救済していくことは、国家の急務である」

 それには、介護保険などをしっかり整備して、社会保障制度を見直し、介護サービスを拡充するしかないという。
 介護サービスを拡充させていくことは、高齢者だけを優遇することではなく、その仕事に従事する現役世代の介護離職を減らすことにもつながり、それによって高齢者を支える下の世代を助ける効果も生む、とも。
 
 番組の最後は、このように結ばれていた。
 
 「団塊世代が75歳の後期高齢者になる2025年には、日本の社会保障費は今より30兆円増えて150兆円に達すると試算されている。
 この世代の老後破産を食い止めることこそ、団塊ジュニアやそれに続く若い世代のために、いま社会が取り組むべき最優先課題ではなかろうか」
 
 ま、たいへんな課題だと思う。
 なかなか具体的な解決方法は生まれないだろうと思うが、「老人社会」の到来は、もう目に見えてきている。
 現役サラリーマンがひしめくオフィス街以外は、日本の主要都市は今やどこも老人の街と化している。 
 
 加速度的に増えていく老人たちが、みな幸せそうな笑顔を浮かべていられる社会が到来したとしたら、日本は世界に先駆けて、「高齢化問題」の危機から脱出した社会を実現したことになるのだろうけれど … 。

 日本人には、それができそうな気もする。
  
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

老人漂流社会 への4件のコメント

  1. 木挽町 より:

    番組みました。ですよね。やばいなぁって気がしました。誰にでも当てはまりそうなところが怖いですね。

    • 町田 より:

      >木挽町さん、ようこそ
      いや、ホント !
      番組を観ていて、これは「団塊世代」だけの問題ではないと感じました。
      でも、自分こそ、何を隠そうこの番組で規定していた “団塊世代” なんですよねぇ !
      だから、すごいリアルな問題でもあるんです。
       

  2. N&N より:

    私も番組を見ていました!
    それよりも私の両親も認知症になり大変です。
    認知度が進行する事で家庭では面倒見切れない状態です
    その為私達は老後の資金など貯める事は出来ない状態に陥っていて、資金が付きた時が破産・・・近い将来離散する恐れも出てきています。
    団塊世代だけの問題ではないと思いますが、現社会が資金を持っている方に有利になっている事が問題だと考えます。

    • 町田 より:

      >N&N さん、ようこそ
      おっしゃることよく分かります。
      私と家内も、昨年までは認知症を患ってきた義母のケアをしてきましたので、その介護の困難さというものがよく分かります。

      義母は、晩年介護施設の世話になりましたが、この番組で描かれたように、介護のための資金をだいぶ費やしました。

      でも、こればっかりはしょうがないですね。
      物理的にも精神的にも、幼い頃は親にケアをしてもらった身ですから、年をとった親の介護を引き受けるのも、子供の運命であるようにも感じています。
       

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