病室の人情ドラマ

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 今回の入院では、ナースステーションの真ん前にある病室に収容された。
 今までこの病棟には3回入院しているが、ナースステーションの真ん前の部屋というのははじめてだった。

 驚いたことが一つある。
 にぎやかなのだ。

 この病気(肺血栓)になってはじめて知ったことだが、病院というのは(静かで落ち着いた施設というイメージがあるが)、実はけっこうにぎやかな場所である。
 
 まず、病棟内にはいろいろな種類のチャイムがある。
 キンコンカンのたぐい。
 その合間を縫って、今度はアラームが鳴り響く。
 ピンポーンピンポーンのたぐい。

 当然、それらの音にはみんな意味があって、ピンポンパンは患者が胸にテープで張り付けた心電図が外れた音であるとか、ピープーピープーは車椅子でしかトイレに行けない患者のナースコールだったりとか、「♪ アマリリス」のチャイムは食事を載せた配膳車がやってくるときの音だとか、ジージーというのは、看護師さんたちがポケットに忍ばせた携帯電話のコール音だとか、… まぁ、いろいろあるのだ。

 とにかく、このチャイムとアラームとブザーの協奏曲には度肝を抜かれた。
 病院というのは、パチンコ屋やゲームセンターのようなものなんだな … ということがよくやく分かってきた。

 だが、“病院サウンド” は、そういう機械音だけではない。
 “合唱” も加わる。

 ナースステーション前というのは、若い女性看護師たちの笑い声、話し声が集中する場所でもあった。

 彼女たちは、個々の患者に接するときは、最大限の注意を払って、優しく、ていねいに、物静かに振舞っている。
 だが、3~4人集まると、とたんにお昼休みの女子高のような空気が生まれる。
 話の内容までは聞き取れないが、ナースステーションに集まってきた女性看護師たちの会話は、あっけらかんと明るく、さわやかである。

 その声を色っぽいと思った。
 若い女性たちの華やかな笑い声は、それだけでももう十分色っぽいのだ。
 しかも、この病院の看護師たちはみな可愛い。
 思わず見とれてしまうほどに。
 それだけで、病気とは別なところで悩ましい気分に陥る (笑)。

▼ 認知症がかった老人にも、優しく、辛抱強く対応する看護師さん

 ま、そういうナースステーションからの音は大歓迎なのだが、今回は同室の患者さんが発するセキ、うなり声、タンを吐く音、寝言、独り言、さらにはお叱りの言葉にも見舞われて、閉口した。
 隣のベッドの住人が、体の動かない寝たきり老人だったのだ。
 もともと手術を受けるために入院したらしいのだが、手術前に体調を壊し、ベッドから動けなくなってしまったようなのである。

 当然、食事も看護師さんがサポートしてくれないと食べられない。
 下半身の世話も看護師さん任せ。
 そういう満身創痍の患者さんと同室した場合は、こっちも気をつかう。

 しかし、普通の会話ができないというのは困ってしまった。
 朝など、検温と脈拍の測定のため、担当看護師の巡回がある。

 「町田さん、おっはよう ! 朝の担当○○でぇ~す」
 と元気な看護師さん。
 それに合わせて、
 「夜の帝王、町田でぇ~す」
 … なんて、こっちが悪ふざけしたのが悪いんだけど、

 「もっと静かにしてくれんかな ! 声が甲高い」
 と、隣の住人からお叱りを受けてしまった。

 これには驚いて、すぐヒソヒソ話に切り替えたのだけど、それも気に障るらしい。
 「小声で悪口を言うのは止めてくれんかな」

 別に悪口なんか言ってない。
 採血するときの注射針を刺す位置を相談していただけだ。

 体が思うように動かず、あちこちが痛い。
 熱もある。
 そういうとき、人間は異常に神経が高ぶるものだから、そういう相手がそばにいたときは、こちらも必要以上に静かにしてあげなければならないのだが、相手が疑心暗鬼になってしまうと、声をひそめるのも逆効果。
 これには看護師さんの方が、「ごめんなさい」と謝らざるを得なくなった。

 そのときは、それで収まったが、以降、こちらがちょっと椅子を引いたり、テーブルを動かしただけで、カーテン越しに「うるさいなぁ」という不機嫌な声が響いて来るようになった。

 「うるせぇのはテメェの方だろうが ! テメェの夜中の独り言やら寝言で、こっちは夜も眠れねぇぜ」
 と、よっぽど言い返してやろうと思ったけれど、他の同室の患者さんや病院のスタッフたちに迷惑をかけてはならないと思って、黙って、じっと耐えた。

 言い返さなくて良かった、と思った。

 午後、その老人の奥方が見舞いに来たのである。

 ―― いったいどんな夫婦なんだ?
 こっちは野次馬根性むき出しで、ベッドから半身を起こし、聞き耳を立てた。

 「かぁさん、悪いなぁ」 
 と老人の声。
 「何が悪いんですか? 気にすることないですよ」
 と奥方。

 2人とも同じぐらいの年だろうか。
 そうなると、75~76歳か、80歳前後?

 「こんな俺をよ、見捨てることなく、見舞いに来てくれてなぁ」
 
 …… ありゃりゃ ? まるで夫婦の人情ドラマにでも出てきそうなセリフ。
 旦那の言葉に返す奥方の返事も泣けてくるのだ。

 「何を言っているんですか。さんざん世話になったのはこっちですよ。見捨てるなんてとんでもない」
 
 「だけどよぉ、お前にはあまり楽しいことをしてやれなかったな」
 「これからですよ。これから楽しくやりましょうよ」

 「ダメだよ。俺はもうそんなに長くないよ」
 「弱気になると、本当にダメになってしまいますよ。まだ一緒になって40年しか経っていないじゃないですか」

 「いや、もう50年だよ。早いなぁ … 」
 「そうですか。50年ですかぁ … 」 
 
 そのあとの2人の声はだんだん低くなって、最後は何をしゃべっているのか分からなくなってしまったが、まるで明治か大正時代の芝居のような、ベタな人情ドラマを見せられた気分だった。

 でも、こういうのを “夫婦” というのだろうな。
 いいじゃないか。
 逆ギレしなくて、ほんとうに良かったよ。

 その夜から、寝返りを打つのにも慎重に、音が出ないように気をつかった。

 しかし、2日後に部屋を移動させられた。

 部屋を移動するとき、ベッドを押していく介護士さんが、こう言う。
 「お疲れでしたね。町田さんも気をつかわれたでしょ?」
 
 何を指しているのか見当はついたけれど、
 「え?」
 っととぼけて、
 「ナースステーションから遠ざかるとさびしくなるな」
 とだけ答えた。

▼ ここの病院はほんとうにケアシステムが充実している。一人で入院している老齢の患者の話し相手になってくれるスタッフさえそろっている
 
  

カテゴリー: ヨタ話   パーマリンク

病室の人情ドラマ への6件のコメント

  1. ようこ より:

    町田さん おはようございま~す

    えっえっ これは退院後に書かれたのでしょうか
    それとも、まだ入院中 ?
    どちらにせよ、お元気そうで嬉しいです。

    でも、読者としては先ず気にかかるのが、今回の入院での
    検査等とその結果なのですがア、じらしちゃイヤ~ン
    次の投稿で?

    私事ですが週があけたら帰国をします、夫と一緒に
    高齢の母を連れて安芸の宮島旅行の予定です。
    広島ドームにも寄ってまいります。

    町田さんの体調が万全な時なら、お目にかかって木挽町さんが
    新開拓されたというソウルバーに行けるのだのに (^__^。ネ
    まだちょっとご無理はなさらない方がよさそうで残念です。

    年をとると、気が弱くなるかと思えば妙にとんがったりと
    理性のタガがゆるんで来るのですよね、町田さんがその方の年令なら
    白いカーテン越しに痛い詞の応戦があったのかな。いや、町田さんなら 笑)

    • 町田 より:

      >ようこ さん、ようこそ
      報告遅くなりました。
      この記事確かに、退院してから書いたものです。

      いちおう今回の手術で、肺にこびりついていた血栓(血のかたまり)は一か所だけ除いて除去されたということで、肺圧などの数値はいちおう健常者の値と同じレベルにまで回復したそうです。

      ただ、肺の機能が完全に回復したと体感するまでには、まだ少し時間がかかるとか。それまで相変わらず酸素ボンベを背負う生活が続きそうです。
      来年4月に首筋からカテーテルを入れて、手術後の肺を再検査をする予定ですが、酸素ボンベから完全に解放されるのは、それ以降かもしれません。

      ご主人といっしょに、お母様を連れて広島行ですかぁ !
      素晴らしいですね。
      紅葉もきれいな頃かな。
      素敵な旅行になることをお祈り申しあげます。

      日程が合えば、ぜひお会いしたいですね。
      ただ、木挽町さんは現在静岡にずっといられるようですね。
      その静岡のソウルバーに行けるといいんですが、体調的にまだ難しいかな。
       

      • ようこ より:

        こんばんわ 町田さん

        >肺圧などの数値はいちおう健常者の値と同じレベルにまで
        回復したそうです。
        との事で、とても安心いたしました。
        町田さんは軽妙に書かれていらっしゃるけど、難病ときいては
        やはり一抹の不安を感じておりました。

        こうなれば一日もはやく酸素ボンベから解放される事を
        心から祈っています。
        私も先日肺のCTスキャンを初めてやってみました。
        特に不調というわけではなかったのですが、喫煙をしているので
        医師からすすめられたのです。

        結果10個くらいの結節があり、大きいのは2cmもあるそうです
        これは癌になる可能性は低いらしいのですが、半年後に又
        検査をするように言われました。
        いやあ、もうこの年令になると、検査をうける度に何かが見つかるう
        でも、今のところ薬も手術も蹴っ飛ばしています。

        来春は、ぜひぜひソウルバーでお目にかかれますように。

        • 町田 より:

          >ようこ さん、ようこそ
          温かいお見舞いの言葉、ほんとうにありがとう。

          現在、風邪をちょっとこじらせて、鼻が詰まった状態で苦しんでいます。
          鼻の奥まで空気が届かないので、酸素ボンベの先っぽを、ときどき口の中に差し込んで、“口呼吸” に切り替えたりね(笑)。

          肺の検査をされたのですね。
          良いことだと思います。
          喫煙はほどほどに。

          私もタバコを50年間、ほぼ1日40本ほど吸っていました。
          タバコは血管を痛めるといいますから、肺血栓を患ったのも、多少はタバコが関係しているのかもしれません。
          今のところ、まだ周囲に「禁煙宣言」というものをしておりません。
          自分自身は、タバコのデメリットばかりではなく、メリットも理解しているつもりですから。
          でも、もう吸うことはないでしょうね。

          次の訪日の機会がありましたら、ぜひご連絡を。
          そのときはプライベートな電話アドレスやメールアドレスなどもお教えいたします。
          ほんとうに一度お目にかかりたいと思っております。
           

  2. かたなねこ より:

    退院おめでとう御座います。先週、タコ社長が店に寄ってくれた時に町田さん退院した事を聞いたので、早くブログ書いてくれないかなと心待ちにしていました。ただ今回の件はめんどくさいですね、自分だったら一日持たないと思います。可愛いナースさんは良いけど(笑)

    • 町田 より:

      >かたなねこ さん、ようこそ
      ありがとうございます。
      なんとか無事退院できました。
      まだ鼻から酸素を強制的に入れている状態は続いていますが、階段の上り下りなどはずいぶん楽になりました。歩いていても、もう立ち止まって休むということもなくなりましたし。

      そろそろキャンプに行くたくなってきましたね。
      年内にフィールドでお会いできればいいですけど、もしそういう機会がありましたら、よろしく。
       

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