ちあきなおみのアンニュイ

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 ここのところ、ちあきなおみの歌が気に入って、YOU TUBEにアップされたものを何度も聞いている。
 直接のきっかけは、1月6日にBSジャパンで放送された『孤高の歌姫伝説~ちあきなおみの歌の世界』という歌番組を観たせいであったが、昔から日本の歌謡曲歌手としては好きな人であった。

 私たちの世代(60代)が知っているちなきなおみというと、やはり『喝采』や『矢切の渡し』というヒット曲のイメージが強すぎて、どちらかという “演歌歌手” のジャンルに収めてしまいがちだ。
 しかし、どっこい、ちなきなおみは、とてもそんな一つのジャンルでくくれるような歌手ではない。

 もし知らない人がいたら、次の曲を聞いてほしい。
 石原裕次郎の持ち歌として知られる『夜霧よ今夜もありがとう』である。

▼ 『夜霧よ今夜もありがとう』

 裕次郎の歌う歌謡曲が、見事なジャズ風のバラードになっている。
 ちなきなおみファンの間では有名な『夜霧よ今夜も有難う~ ちあきなおみ~石原裕次郎を唄う』 というアルバムの1曲目に収録された曲だが、このたゆたうようなリズム感は、もう演歌や歌謡曲のものではない。
 メロディーやコード展開は日本人が聞きなれた歌謡曲ながら、間奏で響く楽器類の音は洋楽そのもの。

 もちろんアレンジの力が大きい。
 ちなきなおみの後期の音楽活動に深く関わったピアニストで音楽プロデューサーである倉田信雄の編曲が功を奏し、もう裕次郎の原曲とはまったく変わった内容の曲となっている。

 何よりも、この曲のいちばんの魅力は、ちあきなおみの “ため息” のようなセクシーボイス。
 それがピアノとサックスのけだるい演奏に乗って、たなびく煙のように流れ出してくると、まさにカクテルラウンジでジャズライブを聞いているような気分になる。
 

 
  今のポピュラー音楽に欠けているのは、このようなディープなアンニュイ(けだるさ)だ。
 これぞ大人の音楽。

 “アンニュイ” というのは、非常にゴージャスで贅沢な感覚である。
 人生に疲れちゃった…、恋に飽きちゃった…、とかいう気分は、ある意味でゴージャス感につながる。ガツガツしているものの対極にあるからだ。
 言葉をかえていえば、満ち足りた状態をいう。

 「アンニュイ」はもともとフランス語で、この言葉の響きからは、すべてに満ち足りた生活を送ってきた貴族文化の気配が漂ってくる。
 フランスは18世紀から19世紀にかけて、一度は世界制覇を成し遂げた国で、イギリスと並んで、アジア・アフリカの富を収奪し尽くした国だ。
 
 いやらしい言い方だが、アンニュイとは、こういう強奪の結果によって得た富に飽きた人々の生活感覚といっていい。 
 食べるために必死に働かなければならない文化からは、アンニュイは生まれない。

 必死で生きている人たちが必要としているものは「元気」、「勇気」、「感動」であり、音楽でいえば行進曲のようなもの。
 しかし、行進曲というのは、軍隊でも、運動会でも、人々に号令をかけて集団の統制を図るものだから、基本的に貧しい音楽だ。

 今のJ ポップには “応援ソング” のような曲がけっこうあるけれど、基本的にそれは “子供のための行進曲” である。
 ちあきなおみのアンニュイに満ちた歌からは、大人の文化の香りがする。

 もう1曲、ゴージャスなけだるさを持った曲を。

▼ 『時の流れに』

 この曲は、1991年に発売された『百花繚乱』に収録されたもの。
 激しい恋も経験してきた女性が、ふと生活の疲れを感じて独り言をつぶやくような世界が広がる。

 歌の中には、こんなフレーズが出てくる。 

 ♪ 時の流れに、流され流れ
   気づけば疲れた、女がひとり
   命までもとおぼれた恋も、
   今では遥かな、雨降り映画

 この心地よいけだるさに満ちた大人のフレーズは、やはり歌のうまさに加え、ちあきなおみぐらいの私生活の経験の深さがないと歌いこなせない。
 
 作詞は、『喝采』、『紅とんぼ』、『冬隣』などといったちあきなおみの代表作を作った吉田旺。
 作曲は『夜霧よ今夜もありがとう』をアレンジした倉田信雄。
 歌手のちあきなおみを交えた最強トリオによる “大人のアンニュイ” の代表作。
 独りで酒を飲んでいる空間に、こういう曲があると助かる。
 

 
  
 

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ちあきなおみのアンニュイ への2件のコメント

  1. ようこ より:

    町田さん
    ♪ 明けましておめでとうございます!今年もどうぞヨロシク~

    いい、いい、いいですねちあきなおみ、あらら、ひらがなばかり。
    私も日本の歌手の中では彼女がダントツに好きです、あの艶の
    ある声と歌唱力を惜しんでるファンが大ぜいいると思います。

    町田さんがあげられた曲もとても好きですが、『FADO』はいかが?
    『朝日のあたる家』や『ねえ あんた』も秀逸ではまりました、
    然し、彼女が唄うとどんな曲でも素敵な曲に聴こえますねえ。

    • 町田 より:

      >ようこ さん、ようこそ
      こちらこそ、今年もよろしくお願い申し上げます。
      ちあきなおみは、どんなタイプの音楽にも、違和感なく声を合わせますね。
      たぶん、自分の歌うべき音楽の本質を理解する能力が高いのでしょうね。

      彼女が歌うファド系の音楽や語り物ももちろん聞いています。
      フラメンコギターをフィーチャーした『霧笛』という曲でしょうか。
      いやぁ、もうほんとうに鬼気迫る歌詞ですよね !
      それに合わせて、歌い方も情念的で、彼女の表現力の高さが伝わってきました。

      『ねぇあんた』も、彼女が歌うと、一幕ものの劇を見ているような感じになりますよね。
      あまり教育は受けていないけれど、愛情だけは人一倍細やかな女性という存在をうまく浮かび上がらせた歌であったように思います

      ただ、今回は “アンニュイ” ということで、けだるい歌だけを取り上げてみました。
       

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