デザインが “語り始めた” アミティ

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「橙香」「朱夏」「銀花」

  
「スペックの時代」から「ポスト・スペックの時代」へ
 
 日本のキャンピングカー文化が、まったく新しい局面を迎えている。
 一言でいえば、それは「スペックとして把握できるもの」から、「スペックとしては把握できないもの」への進化といえばいいのだろうか。

 これまでキャンピングカーの価値というのは、サイズや価格や性能値といった数値を比較することで決まるような傾向があった。
 市場が熟成していないと、そうなることが多い。
 消費者の経験値が浅く、製品の良し悪しを判定する基準が確立されていないときは、とりあえず数値を比べてその優劣を判断するしかないからだ。

 しかし、産業が成熟し、商品開発の歴史も厚みを増し、消費者の目も肥えてくると、次第に商品の評価軸は、スペックでは捉えられない領域に及んでいく。
 国産キャブコンのビッグメーカー「エートゥゼット(AtoZ)」の商品開発が、今そのような段階に進んでいる。
 
▼ 新しいデザインコンセプトを訴えたエートゥゼットの新型アミティ(「ジャパンキャンピングカーショー2017」の会場にて)

 このメーカーが重視し始めたのは、デザイン。
 
 デザイン作業の成果というのは、直接「スペック」には表れない。
 しかし、そのキャンピングカーがどのような性格を持つ車なのかという基本骨格を定めるのは、デザインの力である。
  
 
デザイン部門のアウトソーシングが始まる

 そのように、車のキャラクターを決める大事な仕事であるにもかかわらず、キャンピングカー開発においては、これまでデザイン作業がデザイン専門のプロに任されることはなかった。

 しかし、エートゥゼットは、昨年からキャンピングカー開発にプロのデザイナーを投入し、デザイン作業に本格的に挑戦し始めている。

▼ エートゥゼットの新型アミティの内装コーディネートを担当した小島真子さん

   
 同社の看板車種である「アミティ」の内装デザインをプロに依頼した意図について、同社の渡邉崇紀常務にお話を聞くことができた。
 
…………………………………………………………………………

女性はキャンピングカーのどこを見ているか?

【町田】 エートゥゼットさんは、昔からキャンピングカーの外形フォルムの造形にはかなり神経をつかっていらっしゃいましたね。
 また、内装デザインにも洒落たセンスを発揮されていたと思うのですが、今回インテリアコーディネートに社外からプロのデザイナーさんを招かれたというのは、どういう理由からですか?

【渡邉】 ここ最近、お客様がキャンピングカーを評価するときに、内装色とか家具の形状といったデザイン部分を重視している様子がすごく伝わってくるようになったんです。
 そこで、私たちも「シート柄などを自由にお選びいただけます」というように、お客様の好みに合わせて選択肢を増やしたんですね。
 しかし、「これ以外のものはないんですか?」とか「ほかの色はないんですか?」といった声が途切れないんですよ。
 “ははぁ … それって、皆さん今の品揃えでは満足されていないんだな” と思い至りまして、社内のスタッフだけでデザインを考えることの限界に気づいたんです。

【町田】 そういうお客様のニーズの背景にあるものは何だと思われますか?
【渡邉】 まずはキャンピングカー購入の決定権が、旦那様よりも奥様に移行してきたことが大きいと思います。
 男性は比較的、車の機能とか搭載される装備品の内容などに目が行きますが、女性の場合は内外装の色、家具形状など、車の持つ雰囲気のようなものに関心が向くんですね。
 そして、その車に漂う空気のようなものをパッと肌でつかみ取るところがあります。だから、展示会などで車を見たときも、奥様はエントランスから中を覗いた瞬間に「好き・嫌い」を判断することがあるんですね。

▼ 渡邉崇紀常務

 
 
“社長さんデザイン” の限界

【町田】 これまで、わが国のキャンピングカーでは、社外のプロデザイナーがデザインに関わるということは、あまりなかったですよね。
【渡邉】 そうですね。国産キャンピングカーの内装デザインは、基本的にその会社の社長さんがそれまで培ってきた自分のセンスでまとめあげるか、あとは輸入車の内装を真似ていくか。特に最近はヨーロッパ車の意匠を採り入れる傾向が強くなっていましたね。
 しかし、私たちはそういう流れから一歩抜け出して、プロの日本人デザイナーによる日本のキャンピングカーの内装というものをつくり上げてみたいと思ったんです。

▼ アミティLE

 
 
住宅インテリアの専門家がキャンピングカーを手掛ける

【町田】 今回「アミティ」を手掛けられたデザイナーさんというのは、どういう方なんですか?
【渡邉】 今まで主に住宅の内装コーディネートをやったいらっしゃった方です。一般住宅のほか、オフィスとかホテルの内装や、イベントなどの催事の飾りつけなど、非常に多方面で活躍されている方ですね。
 平成25年度、27年度、28年度の3回にわたって「インテリアコーディネーションコンテスト」のスタイリング部門で優秀賞も受賞されています。
 ほかにセミナーの講師を務めたり、執筆活動もされたり、テレビやCMにも出演される有名人ですね。 

▼ アミティのインテリアコーディネートを手掛けた小島真子さん

【町田】 いろいろな車種バリエーションがあるなかで、このアミティの内装をお願いした理由は?
【渡邉】 昨年たまたまベース車のマツダ・ボンゴがモデルチェンジしたため、アミティもモデルチェンジが必要になったのですが、どうせ新車を出すのなら、思い切って内装も大胆に変えていこうと … 。

【町田】 どんなふうに変えようと思ったのですか?
【渡邉】 ひとつは、やはり女性の感性にフィットする内装を打ち出していこうと。
 そういうことを、これまでは社内のスタッフがいろいろトライしていたんですが、われわれが手掛けると、けっきょく漠然と思い浮かべたイメージから先に進まないんですね。
 しかし、プロのデザイナーさんならマーケティングから拾い上げた豊富なデータをお持ちだろうし、そのデータを表現に生かす方法論もお持ちだろうと推測したんですね。
 
 
環境の変化をイメージさせるインテリア

【町田】 結果はいかがでしたか?
【渡邉】 見事に期待どおりの成果をあげてもらいました。でき上った現物を見ると、やはりわれわれが考えるようなものとまったく違うということが分りました。
【町田】 具体的には?

【渡邉】 彼女は内装のコンセプトメイクを、まず名前の決定から決めていくんですよ。
 最初にお仕事をお願いしたとき、たとえば30代から40代ぐらいの女性を意識した内装を創造するときに、“花” を意味する「フィオーレ」という内装名を考えてくれたんですね。
 そして、少し男性寄りのテイストを盛り込んだデザインには「ポルト」。
 ポルトとは「港」を意味する言葉で、その名の通り、ヨットやダイビング、釣りなどのマリンスポーツをイメージさせる躍動感を盛り込んだ内装になりました。
 その次に考えてくれたのが「ボスコ」。
 これは “森” を意味しておりまして、仲の良いファミリーを対象にした落ち着いてくつろげる空間を狙ったものですね。

▼ フィオーレ(花)

▼ ポルト(港)

▼ ボスコ(森)

【町田】 なるほど。名前が付くことによって、イメージが広がりますね。
【渡邉】 デザイナーの小島さんがおっしゃるには、名前もコーディネートの一部だというんですね。
 つまり、言葉が持っているイメージが人間の意識に脳内変化を起こし、それによって、人間の視覚も変わっていくんだと。
 そういう発想って、われわれキャンピングカービルダーが今まで持ちえない視点だったので、ものすごく勉強になりましたね。
 
【町田】 なるほど。言葉の響きが持つ喚起力って、人間が想像する以上に大きいんですね。
【渡邉】 そうなんです。そこで、今回はさらに一歩進めて、いよいよ日本人デザイナーによる日本人の美意識を追い求めた内装コーディネートを追求してみました。
 いま新型アミティに「LE」と「SPEND」という二つのレイアウトが生まれましたので、それに合わせた新しい意匠を小島さんにお願いしました。
 
  
春と秋の季節感を盛り込んだ「橙香(とうか)」
 
【町田】 以前の「フィオーレ(花)」、「ポルト(港)」、「ボスコ(森)」とはどう違うんですか?

【渡邉】 「フィオーレ」、「ポルト」、「ボスコ」というのは環境の変化に応じたセグメントでした。
 つまり、そういう環境の変化に応じて、いろいろなライフスタイルをアクティブに追求してほしいというもので、どちらかというヤングファミリーを想定したデザインだったんですね。
 しかし、今回はご夫婦で2人旅を楽しんでいらっしゃるシニア層に向けて、四季を楽しんでいただけるように、季節に応じたセグメントを試みてみました。
 そして、それぞれに「橙香(とうか)」、「朱夏(しゅか)」、「銀花(ぎんか)」というネーミングを与えました。

【町田】 全部漢字ですねぇ ! しかも、まるで日本の古典文学にも通じる響きがある !
【渡邉】 そうです。四季が鮮やかに移っていく日本の風土に合わせて、日本語の情感を大事にしようということで … (笑)
 まず、「橙香(とうか)」というのは、春と秋を代表します。
 春から秋までの長いあいだ咲いている「マリーゴールド」という花がありますよね。「橙香」はそのマリーゴールドの色合いや風情を象徴した名前なんですね。

▼ アミティSPEND「橙香(とうか)」

【渡邉】 この「アミティSPEND」というレイアウトは、ご夫婦の2人旅を意識した作りになっています。
 その最大の特徴は、リヤの大型固定ベッドですね。ご夫婦2人がゆったりと寝返りを打っても、まったく窮屈に感じられないようなダブルサイズになっています。その下が大型収納庫ですね。

▼ アミティSPEND「橙香(とうか)」 リヤダブルベッド

▼ アミティSPEND「橙香(とうか)」 ベッド下の大型収納庫

  
  
冬の旅に豊かな情感を盛り込む「銀花(ぎんか)」

【渡邉】 冬の季節を表現しているのが、「銀花(ぎんか)」ですね。
 これは文字通り、冬空を舞う雪の結晶を “花” に見立たてたネーミングです。
【町田】 風情がありますね。「冬」といいつつも、すごく温かい雰囲気です。

▼ アミティLE「銀花(ぎんか)」

【渡邉】 冬は寒い季節なんですけれど、だからこそ逆に、人と人が集(つど)うときの温かさみたいなものが恋しくなるんですね。
 だから、長年連れ添ったシニア夫婦にはいいのかなと(笑)。デザイナーの小島さんもそのあたりを狙っているのだと思います。
【町田】 ほんとうにカラーコーディネートが優しいトーンなので、落ち着きます。

【渡邉】 このアミティLEという車は、リヤエントランスを実現して、リビングの広さを追求したレイアウトなんですよ。
 だから、ご家族の多いファミリーに好まれると思っていたのですが、意外や意外、2人で使われる方に選んでいただくことが多いんです。
 おそらく、ゆったり座れるので、長旅も苦にならないとか、個室もあるので、トイレを付けようと思えば付けられるといったところを評価してくださるのでしょう。

【町田】 なるほど。確かに、そういうシニア夫婦の2人旅に合った内装ですね。カラーコーディネートも飽きがこない。

▼ アミティLE「銀化(ぎんか)」 ダイネットとリヤキッチン

【渡邉】 次が夏の季節を代表する「朱夏(しゅか)」。
 これは、夏の海辺を代表するブルーを基調に、燃える陽光を表す朱色のアクセントを添えるというコンセプトなのですが、実はまだこの内装は完成していないんですよ(笑)。
 だから、もうしわけないんですが、今は実車がないんです(笑)。
【町田】 けっこうです。それは次の楽しみに。
 
 
住宅の内装デザインと車の内装デザイン
の違いは「動く」か「動かない」か

【町田】 では、ここで実際に内装コーディネートを担当されたデザイナーの小島真子さんにお話をうかがいたいと思います。
 住宅の内装デザインのお仕事と、キャンピングカーの内装デザインの仕事を比べると、何がいちばん違うと思われましたか?

▼ 小島真子さん

【小島】 単純なことですが、「車は動く」ということです(笑)。
 というのは、最近の住宅で使われる家具類は、スタイリッシュでシャープなものになってきているんですね。
 もちろんそれは、色使いとかそういう部分にも表れているんですが、形状そのものもシャープになっているものがあるんです。
 そういうものを家具デザインに生かすと、確かにものすごく “今風” になるんですが、車は “動く” ものですから、そのままでは使えない。

【町田】 移動中に人が転んだりすると危ないという意味ですか?
【小島】 そうです。移動中に室内に立ったりすることもあるでしょうから、万が一転ぶことも考えて、形のシャープな家具というのは、まずダメですね。
 ではどうしたら、“今の時代” を感じさせながら、同時に、常に動いていく自動車の内装にも合ったデザインを創造していくか。はじめての経験でしたので、最初はずいぶん悩みました(笑)。

▼ 「銀花」のキャビネット類

【町田】 その問題をどう解決されたのですか?
【小島】 けっきょく家具形状はなるべく優しいものにして、色使いや素材感で “時代の風” を取り込んでいくという方法を採りました。
 さいわい、「今回の想定ユーザー層はシニアだ」というお話もうかがっていましたから、ならば精神的にも成熟した方々が買われるのだろうと推測して、日本の四季を、ちょっと “文芸的” に表現してみたいと思いました
 
 
四季の情緒を内装コーディネートに取り込む
 
【町田】 それが「橙香(とうか)」、「朱夏(しゅか)」、「銀花(ぎんか)」というインテリアパターンのセグメントですね。まるで万葉か古今和歌集にでも出てきそうな言葉ですね(笑)。

【小嶋】 分かっていただけるとうれしいです(笑)。
 要は、車の内装に、ひとつの “物語” を埋め込んでみたかったんですね。けっきょくキャンピングカー旅行というのは、皆さんそれぞれ自分の “物語” を探し求めていく旅だと思うんです。
 その物語を効果的に演出する舞台が、日本の場合は四季です。
 ならば、その四季がそれぞれ持っている情感を、さらに「キャンピングカーの内装」という “アンプ” を使って増幅してみたい。
 それが、今回三つのインテリアパターンをつくってみた動機です。
 
▼ 「橙香」のロゴを入れ込んだカーペットまで製作

【町田】 いやぁ、面白いお話でした。キャンピングカーにこういう要素を盛り込んでいくというのは、やはりキャンピングカー文化の成熟だと思うんですよね。
 文化が成熟していくと、「数値」のようなすぐ目に見えるものから、「情感」とか「気配」といったような、「数値」では測れない領域にまで人々の関心が向かっていく。
 世の中の流れが、今「モノ」より「コト」に向かっているとよく言われますけれど、たぶんキャンピングカー文化も、「モノ」から「コト」への移行期に当たっているのかもしれませんね。
 
 
エートゥゼットHP URL http://atozcamp.com/
小島真子さんのblog http://ameblo.jp/komajimako
 
  

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