ウォーキング ハイ

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 肺血栓症の治療で入退院を繰り返しているうちに、深刻な運動不足に陥った。
 筋力が低下してきたため、腰をかがめて物を拾うことすら億劫になってきたのだ。

 一念発起。
 家の周辺を歩き始めた。
 少しずつ距離が出るようになって、20分から30分は歩けるようになってきた。

 これまで、「散歩」とか「ウォーキング」などといった習慣は皆無だったが、歩き始めると、この単純な運動が面白くなった。
 なんとなく、気分がハイになってくるのである。

 ランニングをしていると、脳内にエンドルフィンが分泌されて気分がハイになることがあるというが、ウォーキングにも “ウォーキングハイ” というものがあるかもしれない。
 要は、リズム。
 歩行にともなう規則的なリズムが、脳内になにがしかの快楽物質を分泌し始めることは確かである。

 音楽を聞きながら歩くと、その効果がさらに高まることが分ったので、いろいろな音楽ソースを自分で編集し、それを聞きながら歩くようになった。

 聞いている曲のテンポが歩行のリズムと合うと、気分がものすごく高揚してくる。(逆に、リズムが合わないと、足がもつれて不快になる)

 いろいろ試してみたが、今いちばん自分の歩行のテンポに合っていると思えるのは、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」(1982年)である。

▼ Michael Jackson 「Billie Jean」

 通常の歩行のテンポより多少速いテンポの曲だが、「さぁー歩くぞ !」と張り切って家を出たときは、この曲に合わせて歩調を取ると、実に気持ちがいい。
 
 1分間に何拍子刻まれているかという音楽のテンポを表現する「BPM」(Beat Per Minute)でいうと、この曲は117だといわれている。
 つまり、1分間に117拍で進行している曲だということなのだ。

 通常の歩行のリズムが78~93程度といわれているから、117というのは、確かに速い。
 速いということは、実は高揚感を引き起こすということでもあるのだ。
 
 人間の心拍数というのが、BPMでいうと、だいたい65~75程度。
 それが、人間が普通に生活しているときの “身体のリズム” なのだが、そのテンポを超えたリズムで体を動かし続けると、人間は次第に「ハイ」になっていく。 
 
 ダンスを踊るなんていうのが、その代表的な例。
 だからダンスを踊れるようなロックやR&Bは、だいたいBPM 120~140で作られている。
 ディスコで鳴り響く4つ打ちのダンスナンバーなどが、みな120~140という微妙なBPMの範囲を出ないように作られているのは、けっきょくその範囲内で踊っているかぎり、人は極端に疲れることなく興奮だけが持続するという生理学上の研究からきている。

 となると、この「ビリー・ジーン」。
 BPM 117というのは、非常に微妙なテンポといえる。
 通常の歩行のリズム(78~93)よりは速いが、ダンスビート(120~140)よりはゆるやか。(これ以上速くなると、ランニングのテンポになる)

 つまり、この「ビリージーン」のBPM 117というのが、すなわち「ウォーキング ハイ」に至るテンポなのだ。
 このリズムに乗って足を動かしていくと、次第に脳内にエンドルフィンが分泌され、わりと早い段階から、もう得も言われぬ恍惚感に満たされることになる。
 皆様もお試しあれ。
 
 
 この「ビリー・ジーン」と似たようなテンポの曲を拾ってみると、ブッカーTジョーンズとリタ・クーリッジがデュエットしている「We Could Stay Together」(1980年)がある。
 
▼ Booker T Jones 「We Could Stay Together」

 イントロだけでは、どんな曲が展開していくのか、ちょっと読めないところがあるが、リズムが流れ出すと、実に軽快。
 この曲も、BPMでいうと117程度(たぶん)。少し早足で歩くときのBGMとして、実に心地よい。

 ブッカーTジョーンズは、名ギターリストのスティーブ・クロッパ―を擁した「ザ・MG’s」を1962年に結成。サザンソウルの名門「スタックス」のハウスバンドとして、オーティス・レディング、サム&デイブなどのバック演奏を務めた人で、「グリーン・オニオン」などのオリジナルヒット曲も持つ。

 そういう実力派のミュージシャンであるブッカーTが手掛けただけあって、この「We Could Stay Together」などは極上の “Walking Music” になっている。
  
 
 では、いろいろな音楽のなかでウォーキングに適した音を拾いあげるコツというものがあるのだろうか? 

 ま、このへんは、その人なりの音楽の好みによっても変わってくるし、第一、人間が固有に持っているリズム感のようなものは、人によって微妙に異なるから、誰にでも当てはまる “万人共通” というものをピックアップするのは難しいかもしれない。

 ただ、大ざっぱにいえば、シンセドラムなどを使った4つ打ちビートの曲は比較的歩きやすい。
 誤解されるかもしれないが、一言でいえば、リズムに “工夫のない” 単調なテンポの曲がいいのだ。

 基本的にディスコでかかっていたような曲には、Walking Music に使えるものが多いが、R&B、Soul 系全般が歩きやすいとは限らない。黒人音楽独特の粘っこいタメ が(音楽として聞くとカッコいいのだけれど)、歩行という “味気ない(?)” 運動にはかえって邪魔になるからだ。

 つまり、リズムに “タメ” があってはだめ。
 もちろんシンコペーションなどはもってのほか。
 要は、メトロノームのように正確に( … ということは味気なく)一定のリズムを機械的に刻んでいく曲でないと、快適に歩けない。

 そんな曲として、ザ・エモーションズの「ベスト・オブ・マイ・ラブ」(1977年)などは比較的歩きやすい曲の一つだろう。

▼ The Emotions 「Best of My Love」

  

 R&B系でいえば、次のような曲も、音楽として聞いてもカッコいいし、張り切って歩くときもハイになれる。
 アン・ピーブルスの歌う「Slipped Tripped And Fell In Love」(1971年)。
 南部系ソウルミュージックの特徴が際立つ音だが、実に洗練されたサウンドである。 
 これも少し早めのウォーキング向けリズムとしては、お薦め。

▼ Ann Peebles 「Slipped Tripped And Fell In Love」.

 個人的に、気に入っているのは次の曲。
 バディ・マイルスの「Them Changes」。

▼ Buddy Miles 「Them changes」

 1970年に発表された同タイトルのアルバムに入っている曲で、ジミ・ヘンドリックスのライブアルバム(バンド・オブ・ジプシーズ)にも収録されたことのある曲。

 時代が古いせいもあって、かなり野暮ったい音ではあるのだが、なぜかすごく “歩ける ‼ ” 。
 ギターリフに合わせて、ザクッザクッと足音を立てて大地を踏みしめていくと、すごい快感。
 舗装された道路よりも、土がむき出しになった道が合いそうだ。
 この音を聞きながら野山を歩くと、「前人未踏の荒野を踏破していく!」というような活力が湧いてくる。
 
 
 ROCK全般からWalking Music を拾ってみると、まずブリティッシュ系でいえば、フリーの「オールライト・ナウ」(1970年)。

▼ Free 「All Right Now」

 フリーの音は、重く引きずるようなものが多く、あまりウォーキングには向かないのだけれど、この曲だけはリズムが等間隔にシャキシャキ切れていて、かなり気持ちよく歩ける。

 個人的には、フリーの場合は「Fire And Water」のようなミディアムテンポのブルースっぽい曲の方が好きなのだけれど、 あの曲では歩けない。あれを聞きながら歩くと、腹痛を起こして地面をのたうち回るような歩き方になるだろう。
 つまり、“好きな曲” と “歩ける曲” は違うのだ。
 
 
 フリーはイギリス出身のバンドだが、北米系のROCKから「歩いていてハイになる」曲を拾ってみると、まず筆頭に上がってくるのは、クリアデンス・クリアウォーター・リバイバルの「ボーン・オン・ザ・バイヨー」(1969年)。

▼ Creedence Clearwater Revival 「Born On The Bayou」

 リード・ヴォーカルを取っているジョン・フォガティの声の “破壊力” には背筋が凍り付いて、鳥肌が立ってしまう。.

 この時代、数多くのロックバンドが楽器によるハードさを志向していったが、クリアデンス・クリアウォーター・リバイバルだけは、そういう動きに対して “声” だけで立ち向かった。
 だから、この曲には “ウォーキング ナチュラル ハイ” が約束されている。 

 それにしても、この曲。
 ほとんどワンコードである。
 つまり、「メロディーなどどうでもいい」と開き直った曲なのだ。
 その潔さが、神がかり的なヴォーカルの迫力を生んでいる。
 
 このアーシーな(土臭い)音が気に入った人には、こちらもお薦め。

▼ Creedence Clearwater Revival 「Tombstone Shadow」

  
  
 C・C・R(クリアデンス・クリアウォーター・リバイバル)の汗と土の臭いがするロックが苦手という人に、甘くて爽やかなフォークロックを1曲。
 日本ではあまりなじみのないファイアーフォールというバンドの「イット・ダズント・マター」(1976年)。

▼ Firefall 「It Doesn’t Matter」

 クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングばりのハーモニーを効かせたヴォーカルが売り物のバンドだけど、ウエストコースト系バンドの爽やかさのなかに、どことなく哀愁を漂わせたメロディーを持っているところが特徴である。
 
. 
 フュージョン系からも1曲。
 オールマン・ブラザーズ・バンドに所属していたピアニストのチャック・リーブルを中心に結成されたバンドがシー・レベル。

 この「フィフティ・フォー」は、彼らの『オン・ザ・エッジ』(1978年)に収録された曲。小気味よいバスドラの響きが Walking Music として十分に活用できる。
 
▼ Sea Level 「Fifty Four」

 それにしても、こうしてピックアップしてみると、1970年代の曲が大半を占める。
 これは、やはり自分がいちばん音楽を聞いていた時代の体験が反映しているとしかいいようがない。
 早い話、古いサンプルしか知らないというわけなのだ (汗 ‼)

 あの時代、もちろんいろいろなROCK、R&B、JAZZを聞いてきたけれど、すべてそれは、自分の部屋だったり、ディスコだったり、あるいは車の中という閉ざされた空間の中での体験に過ぎなかった。

 しかし、今こうして戸外の空気を吸いながら、歩行のリズムに合ったものを拾い出してみると、音楽がまた変わって聞こえてくる。
 思い起こせば、1979年にソニーから発売された「ウォークマン」というのは、実に偉大な商品であったというべきかもしれない。 
 
 

カテゴリー: 音楽   パーマリンク

ウォーキング ハイ への2件のコメント

  1. get より:

    お邪魔します。

    7年ほど前、慢性閉塞性肺疾患(COPD)との宣告を受けました。
    別名 タバコ病。
    合併症として慢性気管支喘息も発症。
    緩徐進行性であり、この冬は思わぬ肺炎を起こし、後は遅々として回復叶いません。
    タバコは30年以前に止めました。
    その後、陶芸クラスのテック・アシスタントをやっているうちに、
    灰塵やら、釉薬用の化学薬を多年にわたり吸い込んだ為かもしれません。
    何しろ一学期間の学生数が平均250人ほどですから一日中です。
    素焼きから本焼きまで全てインストラクターと二人でこなしたいました。
    が、これはもう大分前にやめました。
     
    進行をなるべく緩慢にさせるべく、5年前から毎朝3キロは歩いています。
    手を振る、歩幅を大きく取る、少しのランニングも交えるなどなど。
    いろいろな歩き方が奨励されている様ですが、自己ペースで歩くのが一番の様です。
    一週間前から、胸式呼吸を腹式呼吸腹式呼吸に切り替えました。
    これが無意識にできる様になるのが結構難しかったです。
    腹式呼吸にすると体内の酸素濃度が上がりました。
    100が正常とすると、平常98が99に上がりました。
    男性は無意識下に腹式呼吸している様で、女性よりは楽に切り替えられるでしょう。

    必要に応じて聴くときもありますが、音楽は聴かずに歩きます。
    瞑想と思い、しょーもない事をあーだ、こーだと考えながら歩きます。
    (家に帰ったら朝飯は何にするか、昼飯の買い出しに行くか、等々。)
    畑地を歩くので、信号もなくノン・ストップで理想的に歩けます。
    体力をつけるにはこの適度な運動が最適の様です。

    • 町田 より:

      >Get さん、ようこそ
      誠に貴重なレポートをありがとうございました。
      私と同じような肺の病気を克服されているGet さんの言葉には重みがあります。
      腹式呼吸が血中酸素濃度を上げるなど、はじめて知りました。
      現在、私は血中酸素濃度が96~97ぐらいです。
      夜間の睡眠時は、それが80台まで落ちることもあるそうです。
      そのため、夜はまだ酸素マスクを着用しています。

      それにしても、1日3kmのウォーキングを5年間も続けられているというのはすごいことですね。自己ペースで歩くことがずっと続けられる秘訣なのでしょうね。

      現在、家を起点として、その日の気分で東西南北を選び、時間にして1時間程度歩いています。
      そうとう疲れます。
      家に戻るとぐったりして、しばらく何もしたくありません。
      あまり無理すると長続きしないかもしれませんね(笑)

      日本はそろそろ梅雨の時期を迎え、雨天や蒸し暑い日々が到来します。
      はたして、そういう季節になっても「歩く習慣」を維持できるかどうか。
      試されそうです。

      コメントありがとうございました。
      また、いろいろご指導ください。
       

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