180°words ワンエイティ―ワーズ

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 偶然耳に入った曲が好きになり、そのCDを買ってしまうということがある。
 かつて、街のいたるところにCD屋(その前はレコード屋)があった時代には、ちょっとした時間が余ったときに必ずCD屋に足を踏み入れていたので、偶然かかっている曲を気に入り、よくCDを買った。

 しかし、今はもうCD屋というものが、街から姿を消している。
 だから、自分の場合、街を歩いてるときに音楽情報を得るという機会がなくなった。
 
 と思っていたら、このまえ、中央線・高円寺の北口でストリートライブをやっていた若者たちの音楽が気に入って、彼らに話しかけ、CDを買ってしまった。

 とにかく、暑い日だった。
 梅雨に入ったというのに、東京は連日炎天下。
 昼過ぎに、所用で高円寺に行って電車に乗って帰ろうとしたときである。


 
 北口の横断歩道のそばに、それぞれ楽器を抱えて集まっている集団がいた。
 ライブ演奏が始まりそうなのだが、観客は誰もいない。
 しかし、4人の青年はさほどそれを気にするふうもなく、せぇーのっと演奏を開始した。

 ―― 涼風が吹いた !
 と思った。
 リードギターの響きが、なんともいえない涼しげな風を巻き起こしたのだ。

 そのギターの音色と、歌われている曲のメロディー、そして歌詞がぴったりとシンクロした。

 個人的な好みをいえば、とにかく “夏の風” を感じさせるギターの音に弱い。
 たとえば、プールサイドの微風を感じさせる音色。
 水面のきらめきを想像させるフレーズ。
 そんなイメージが湧いてくるギター音が好きだ。

 だから、竹内まりやの「夏の恋人」とか、はっぴいえんどの「夏なんです」なんていう曲が自分のお気に入りなのだ。
 それらの曲に溢れている “夏のけだるさ” が大好きだ。 

 高円寺駅の北口でストリートライブを始めた若者たちの音は、まさに夏の音そのものだった。

 ライブ中、彼らの足元に立てかけられたスケッチ帳があった。
 「180°words」と書かれていた。
 それがバンド名らしい。

 何て読めばいいのか。
 「ワンエイティ―ワーズ」というのだそうだ。

 1曲終わったところで話しかけてみた。
 「今の曲がとても気に入ったのだが、YOU TUBE などにアップされているか?」
 「他の曲ではアップしたものもあるが、この曲はアップしていない」
 「CD化されているのか?」
 「CDなら用意している」
 
 ということで、1,500円払って、その曲の入ったCDを買った。 
 6曲入りのCDで、アルバムタイトルは「orange」。
 気に入った曲は「ふたりで」というタイトルの曲だったが、家に帰ってCDを聞くと、ライブの音よりも少しヘビーに感じられた。
 ライブで聞いたときの軽やかな音の感覚は、むしろ「オレンジ」というタイトル曲の方に近い。

 

 音の傾向でいうと、フォークロックというのだろうか。
 電気楽器の編成なんだけど、ものすごくアコースティックな響きが感じられる。
 自分なんかの世代だと、1960年代のバーズとかCSN&Y、1970年代のアメリカやファイアーフォールなどのサウンドを思い出す。
 日本の音でいえば、はっぴいえんどの「風をあつめて」とか、シュガーベイブの「ダウンタウン」などの音にも近い。

 とにかくリードギターの奏でるフレーズが印象的。
 その音が、歌詞が持っている世界観とよく調和している。

 歌詞の特徴はどこにあるのか。
 熱い恋愛が語られるわけでもなく、ドラマチックな事件が起こるわけでもなく、一見、平凡な日常が語られているに過ぎない。
 が、しっかり詞をたどってみると、その平凡な日常こそが “かけがえのないものである” と認識している作詞家の冷徹な視線が感じられる。

 「オレンジ」で歌われているのは、晴れた日曜日の公園で繰り広げられている “平和” そのものといった情景だ。
 ブランコに並ぶ子供たち。
 バンダナを巻いたゴールデンリトレバー。

 そんな何の変哲もない光景を眺めながら、歌の主人公は、「僕も景色に馴染めているのかな」とつぶやくように自問する。

 なぜ、自問なのか?
 それは歌の主人公が( … つまり作詞家が)、時には「環境に順応することのできない自分」もあることを知っているからだ。

 おそらく、この主人公はそうとうピリピリした感受性を持っている人なのだろう。
 その鋭敏な感受性によって、彼は周りの景色から弾かれてしまう経験も持っているのだろう。

 だから、その日、彼は “この平和な日曜日の公園の情景” が自分を受け入れてくれていることを感じ、そこから “柔らかい空気” を受け取ることができたのだ。

 ここに、このバンドの世界観が凝縮している。
 一見、幸福に満たされた退屈なほどの日常。
 しかし、その平和で健康な日常は、まるでガラスのような繊細さによって、かろうじて支えられているに過ぎない。

 一度それに気づいてしまうと、海面のきらめきも、頬に当たる風も、林の木漏れ日も、涙が出そうなくらい大切に思えてしまう。

 そういう切なさが根底に潜んでいるから、この歌は爽やかなのだ。

 「爽やか」とは「さびしさ」の別名である。
 「悲しみ」が濾過された「さびしさ」のことを、人は「爽やか」と呼ぶのである。
 
 このバンドのギタリストは、ほんとうにそこのところを知っている。
 だから、いい音になっている。  
 
▼ 180°words 「ウズマキ」
 

 彼らのCDを聞いていて、ふと「くるり」というグループの「Baby I Love You」という曲を思い出した。
 実は、くるりの「Baby I Love You」も、CD屋をさまよっているときに偶然聞いて、気に入って衝動的に買ったのだ。
 
 どうも自分は、こういう爽やか系フォークロックが好きなようだ。
 ※ 別のところではヘビーなコテコテブルースが好きだといいつつ、自分もかなりいい加減な人間である。

▼ くるり「Baby I Love You」

 
 
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