中国式世界帝国の未来

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 日本のメディアが衆院選の話題で盛り上がっていた頃、東アジアでとてつもない地殻変動が起こっていた。
 中国共産党の「共産党大会」が開かれ、習近平主席の権力基盤の空前絶後の強大化が図られたのだ。

 その大会で宣言されたことは、
 「2049年までに、中国は社会主義国家としての “強国” となり、世界に大きな影響力を持つ」
 そして、
 「そのときまでに、中国人民軍を世界一流の戦闘集団に変革する」
 
 この習近平演説は何を意味するのか?

 21世紀後半は、「パクス アメリカーナ(アメリカの世界支配による平和)」の時代から、「パクス チャイナ」の時代に移行するという宣言なのだ。

 これはかねてから中国の悲願であったが、軍事力と経済力でアメリカにかなわないと思っていた中国は、それをあからさまに宣言することはなかった。
 しかし、アメリカにトランプ政権が誕生し、「自国優先主義」を打ち出して、内向き政治を志向することが明らかになった以上、習近平氏は今こそアメリカに代わる “世界帝国” を目指す好機と読んだのだろう。
 
 
世界史においては、中国優位の時代の方が圧倒的に長い

 これは突然降って湧いた話ではない。
 むしろ、中国社会が成立した3000年前から途切れることなく進められてきた構想といってよい。

 そして、事実、中国はそのような歴史を歩んできた。
 秦、漢、唐、宋、元、明、清と 王朝は次々と変わったが、どの王朝も基本的には領土的膨張政策をとり、元の時代は中東全域を支配したばかりではなく、派遣軍の一部は西はドイツまで迫り、東は日本まで達した。 
 そのような対外膨張政策を取りながら、歴代皇帝たちは、内政にも力を注いだ。

 だから、中国を「新興国」と呼ぶのは間違いである。18世紀まで、西洋列強よりも「先進国としての格」を誇っていたのは中国の方であり、政治思想の成熟においても、経済的安定性においても、中国の優位性は揺るがなかった。
 
 しかし、200年ぐらい前に、産業革命を終えた西洋諸国が一瞬だけ中国を抜いた。
 われわれ日本人は、明治維新のときに、「西洋列強に侵食されそうになった瀕死の中国」をたまたま見てしまった。
 そのとき日本人は、中国を「近代化に遅れた後進国」とみなし、東アジアでいち早く “西洋化” を遂げた日本よりも格下の国と見下すようになった。
 
 これはとんでもない間違いである。
 明治期に、中国を「西洋的視点」で眺め、西洋の尺度で分析するようになったとき、われわれ日本人は、中国オリジナルの思想や価値観を正確に理解する評価軸を見失ってしまったのだ。 
 
 
 このたび、中国共産党の頂点に立った習近平主席に権力集中したことを見て、われわれは「とんでもな独裁政権が生まれた」と見なしがちである。

 しかし、習近平主席を “独裁者” と見なし、それに批判的視線を向けること自体が、すでに “西洋的” な価値観に基づいた見方である。
 
 中国国民は、もう3000年以上、独裁者が統治するのが当たり前という政治認識のもとで生きてきた。
 彼らにとって問題は、「その独裁者が国民に幸せをもたらしてくれるか否か?」ということだけであり、独裁者そのものが悪いという発想は彼らにはない。

 したがって、中国には「民主主義がない」という見方も、あくまでも西洋的な見方でしかない。日本人が考えるほど、彼らは西洋的な民主主義など求めていない。
 逆にいうと、中国人は「西洋的民主主義」などに守られなくても、すでに自力で生き抜く、たくましい個人主義を身に付けているともいえる。
 
 
中国の歴史は独裁者の歴史そのものである

 そこまで話を進める前に、まずは、なぜ中国が「独裁者」を容認するような国になったのか、ということを考えてみる。

 これは、中国に統一国家が生まれた歴史の古さと、その国家が支配する領域の絶対的な広さが理由となっている。
 つまり、広大な領土と、雑多な民族が入り混じる中国を管理するには、即座に決断を下して、瞬時に行動に移れる強大な権力機構が必要となる。
 要は、強権を効率よく発動できる独裁者でなければ中国を治められないのだ。

 こうして、中国は、ローマ帝国がヨーロッパを統一するはるか前から、広大な中国大陸をコントロールできるような帝国を建設していた。
 それを可能にしたのは、地勢的な特異性であった。

 ローマが、ヨーロッパや北アフリカを統一するにはそうとうな困難があった。
 なぜなら、イタリアの北にはアルプスがそびえ、南には地中海が横たわる。この地形的な障害がローマ人たちの移動コストを大きくしていた。

 それに比べ、中国はその中原にアルプスのような山脈もなければ、地中海のような大海もない。そのため人々の移動コストが安くすみ、戦争もやりやすかった。
 戦争がやりやすいということは、国土の統一にも手間がかからないということであり、中国の場合は、早くから統一政権のモデルケースが生まれた。

 つまり、統治理念を支えるイデオロギーも早いうちから整備されたのだ。
 それが、孔子を開祖として、統治のノウハウを理論化した「儒家思想」である。

 儒学者たちは、歴代の皇帝に、「君主は徳をもって人民を慰撫し、国を安定させなければならない」と諭した。
 
 その理想モデルは、古代王朝の伝説的名君「堯(ぎょう)」と「舜(しゅん)」であり、彼らが統治した王朝こそが、中国王朝の究極に理想である、とされた。

 つまり、中国における政治の理想は、「君主が徳を発揮する」という一点にかかっており、もうそこに「国民」や「人民」や「市民」が介入する余地はないのだ。

 こういう儒家思想は、中華人民共和国の成立期に、いったんは「反革命的」であるとして、弾圧された。
 しかし中国共産党は、中国人の心の根っこに広がる儒家的メンタリティーは共産党の統治にも有効であると気づき、やがて儒家思想を保護するようになった。

 こうして共産党は、中国人の儒家的メンタリティーを巧妙に利用してプロパガンダ化し、まず毛沢東の神格化を図り、現在は習近平主席を “民に徳を与える名君” と讃える政治宣伝に力を入れるようになった。
 
 
中華思想に教化された方が日本人も幸せになる?

 このことから分かるように、日本は “偉大な名君(?)” が統治する大帝国を隣国に持つことになったのだ。

 結果がどうなるか、目に見えるようだ。
 「日本人も早く中華思想に教化された方が幸せになる」
 という教育を受けた中国人の視線に、日本はさらされることになる。

 だからといって、彼らが日本製品を好み、日本食や日本のアニメを愛することとはまったく矛盾しない。
 彼らにとって、政治思想は政治思想。趣味嗜好は趣味嗜好。
 そのへんをまったくデジタルに切り離せるのが中国人である。
  
 
“中国的個人主義” の正体
 
 前も書いたことがあったが、膨大な人口を抱える中国においては、個人の生命の価値がそれほど重くない。
 もともと中国は、アジア随一の大農業国であったから、養える人口の数が周辺国とは比べものにならないほど多かった。
 そういう国では、逆に1人ひとりの「命の重み」というものは軽くならざるを得ない。

 そのため、中国人は政府などに頼らなくても生きていける「自立した強い個」を志向する力を養うことになった。

 中国の自立した個人が、西洋の近代的個人と違うのは、他者との間のマナーやルールに捉われないということだ。
 先に主張した者が勝つ。
 利益を先に取得した者が勝つ。
 気の弱い日本人なら、ウッと引いてしまうようなこの中国人のバイタリティーは、けっきょくそうしなければ生き抜いて来れなかった歴史の蓄積からくる。

 現在、日本海はおろか太平洋側にまで進出し、漁業ルールを無視した中国漁船の魚の乱獲が問題になっている。
 過度な乱獲は、将来資源の枯渇を呼びかねないが、大昔から中国人は、「将来の資源」などを考えていたら餓死してしまうような歴史を生き抜いてきた。

 あの膨大な大陸に、ひとたび大干ばつ、大飢饉が広がったら、何万・何十万という人間が瞬時に飢え死にする。
 そのような切迫感に包まれた日々を歴史的に経験していくうちに、彼らはあのたくましいメンタリティーを手に入れたといっていい。 
 
 
中国に「民主主義思想」は浸透するか?
 
 民主主義は、個々人がお互いの生き方を尊重し、相手の利益を確保するためには、多少自分の欲望を制限するという精神によって支えられている。
 こういう精神を、今後中国の人々は身に付けていけるのだろうか。

 難しい … という気もする。
 これは勝手な推論であるが、民主主義が機能するエリアというのは、ある程度の狭い領土とある程度の少ない人口に支えられた限定的エリアにすぎないのではないか。
 つまり、ヨーロッパ諸国や日本である。

 議会制民主主義が最初に根付いた国はイギリスであったが、それは領土が限定されて人口も少ない島国であったからだ。
 ヨーロッパ諸国も、その統治規模はイギリスとさほど変わらない。
 日本もしかり。

 アメリカの場合も、国土は広いが、各州ごとに異なる地方自治組織が運営を任せられており、州ごとの民主主義が機能している。

 だが、中国の場合は、人口も領土もケタ外れに膨大である。
 それは民主主義が機能する限界を超えている。
 こういう国では、強権を持った国家組織が、かなり厳しい監視のもとに人民を管理していく以外に統治方法がない。

 つまり、中国に民主的な思想が広がっていくということは、今後もあり得ない。
 あの天安門事件の首謀者たちを徹底的に弾圧したことからも、中国政府が民主的なイデオロギーの浸透を極度に警戒していることが分る。

 前述したように、中華思想というのは “天” から使命を受けた皇帝が、天に代わって世界を統治するというもので、そこには西洋的な「独裁者」という概念は存在しないのだ。
 彼らから見れば、“天” から指名された皇帝は、無条件に「絶対善」であり、それに疑義を唱える「民主主義思想」や「人権思想」は “民を惑わす” 危険思想ということになる。
  
  
“朝貢貿易” の復活
 
 こういう考え方が中国の統治理念の根幹にあるから、中国は対外政策においても、周辺国の独裁政権と結びつきやすい。

 現在、カンボジアのフン・セン首相の国民に対する人権抑圧姿勢が国際社会から非難されるようになったが、フン・セン首相は国際世論にはまったく耳を傾けず、ますます独裁権の強化を図っているという。

 専門家にいわせると、首相が強気の姿勢を示す背後には、中国の存在があるといわれている。
 現在、中国の対カンボジア投資額は2億4,100万ドル(2015年データ)。
 これは、カンボジアに投資する日本の投資額の6倍以上にあたり、カンボジアの経済は中国支援抜きには成り立たないようになってきたとか。

 「臣下としての忠誠を示せば、多大な褒美を与えてやるぞ」
 というのが伝統的な中国の外交政策で、これを朝貢貿易といった。
 
 今の中国がやろうとしている外交政策は、まさに朝貢貿易の復活である。
 かつて南シナ海の領有権をめぐって中国と敵対したフィリピンも、独裁的傾向に強いドゥテルテ大統領の代になり、やはり経済支援をちらつかされて、親中国的な方針に転換した。

 周辺国に対し、“朝貢貿易” で支配権を広げていく中国。
 今後の対中外交は、どうしたらいいのか。 専門家でもない私は、これ以上考えることができない。
 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

中国式世界帝国の未来 への2件のコメント

  1. 江草乗 より:

    民主化を求めて天安門の前に群衆が集まったことは
    中国の為政者から見れば「黄巾賊の乱」や「太平天国の乱」のような
    レベルにしか受け取れず、弾圧しないと国家の根幹が揺るがされると
    思ったのでしょうね。

    「自国が世界の中心」という中華思想の前には
    領土問題など存在するわけがなく、いずれ全世界を中国が支配する
    という未来を予想してるのかも知れません。

    いずれ世界を支配するのはやはり中国なのでしょうか。
    人権思想が存在しなかったら、戦争も虐殺もやり放題ですし
    兵士がいくら死んでも平気な国と戦争して勝てる国はないでしょう。

    • 町田 より:

      >江草乗さん、ようこそ
      そうだと思います。
      天安門事件は、まさに現代の「黄巾賊の乱」か「太平天国の乱」だったのでしょうね。漢民族の政権は、こういう民衆の反乱によって何度も転覆してしまった経験を持っています。だから、早いうちに芽を摘んでしまおうと思ったのでしょうね。

      今後中国がどのくらいの規模の帝国になるのか、今はまだ見当もつきません。
      しかし、太平洋の半分を領海にしようという欲望があることは確かで、尖閣諸島は、中国の太平洋艦隊が、太平洋の中央まで効率よく出撃するための通路として最適なコースだと判断しているという話もあるようです。
      だから、中国海軍は「日本は我々の尖閣周辺の航行に神経質になりすぎる。もっと当たり前のこととして慣れてくれない困る」と言ったとかいう話も聞こえてきます。

      今の中国政府の非民主主義的な諸政策に対しては、「人権侵害」という視点で批判してもあまり効果はないでしょうね。中国通のアナリストのなかには、中国に対しては、「道義」を主張するよりも「利」をちらつかせ、「損得」という基準を掲げて外交に臨むしかないということを言う人もいます。

      領土問題に関しても、中国は、国際法をかざしたり、政治上の信義を主張したりしても通用する相手ではなさそうです。かといって対抗処置として、軍事的緊張を高めていっても、日本が疲弊するだけでしょう。

      いずれにせよ、次の国政選挙のときは、北朝鮮問題よりも、むしろ対中国外交をどう進めるかということが重要な争点になるかもしれません。
       

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