北朝鮮美女たちのメランコリー

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 平昌(ピョンチャン)オリンピックが終わって、日本選手のメダルラッシュに日本中の人々が湧いたが、私が感じたこのオリンピックは、妙に異様な空気に満ちた大会であった。
 そう感じた理由は、北朝鮮の関与である。

 応援にかけつけた北朝鮮美女軍団のパフォーマンス。
 同じく北朝鮮楽団の演奏模様。
 そして、それらを統率して、韓国側とさまざまな交渉を進めた “謎の女性団長” 玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏。 
 そして、外交特使として訪韓した金正恩の実妹である金与正(キム・ヨジュン)氏。
 
 今回の大会には多くの北朝鮮美女たちが関わることになったが、この人たちのかもし出す空気は、世界のどこの女性も持っていない独特のものだった。
 「仮面の笑顔」
 といえばいいのか、これほど人間の「内面」から遊離した笑顔というものを、自分は今まで一度も見たことがない。

 “未来の技術” といわれる高度なAI を搭載したアンドロイドたちは、もしかしたら、みなこういう笑顔を浮かべるのだろうか。
 一糸乱れぬ華やかな演技を繰り広げる美女応援団のパフォーマンスを見ていると、まるで精巧にプログラミングされたAI 回路が超高速度で運動しているように見える。


 
 “謎の美女楽団団長” といわれた玄松月氏の表情も、どこか人間離れしていた。
 精一杯 “威厳” を崩さぬように振舞っている彼女の表情から、「ふてぶてしさ」を感じる人もいただろうが、私はそこに、人としての感情を職務としてはく奪された人間のメランコリーを見る。

 彼女はすでに、喜怒哀楽を表現することを許されない軍神として、“敵国” に降臨したのだ。
 個人の「内面」の代りに、そこに詰め込まれたのは、相手にすきを見せない政治的冷徹さ。他国を睥睨(へいげい)する威圧感。すなわち「国家としての威容」そのものである。

 金正恩委員長の代理として登場した実妹の金与正氏も、生身の人間としての笑いをはく奪された「仮面の微笑」を貫き通した。

 彼女も、顎を少し上げた仕草が、傲慢、尊大という批判にさらされた。
 しかし、これも「傲慢・尊大」に見えるように振舞ったわけではない。
 北朝鮮という「国家」を代表する者として、個人の意思や感情を抹殺せざるを得なかった人間の “がらんどう” の内面がそのまま表情に表れたにすぎない。

 米国のペンス副大統領は、金与正氏のことを「地球上で最も残虐で抑圧的な体制の中心人物」と批判したが、彼女にそれほどの主体性があるわけではない。
 彼女は、金正恩委員長の実妹ということで、国家的イベントをすべてプロデュースする影の実力者といわれ続けてきたが、実妹といえども、おそらくあの国では「女性が男に代わる実力者」として認められることはないだろう。

 「女はすべて男の欲望と生活を支える人間型アンドロイドである」

 そういう女性観が、この国では揺らぐことなく存在し続けている。
 北朝鮮美女軍団の「仮面の笑い」の謎も、そこに由来する。

 だから、彼女たちの表情は、どこか絵画的である。
 「内面」の奥行きを失った彼女たちを表現するには、動画や画像のような3次元的表現よりも、表と裏の違いを喪失した二次元表現の方が適している。

 私が金与正氏の顔を見て、真っ先に思い出したのは、エドヴァルド・ムンクの「マドンナ」(写真下)だった。 

 透き通るような肌の白さ。
 さびしさを内に宿した薄幸そうな表情。
 生きているうちに、どこか死のほとりをさまよっているような虚無感。
 金与正氏の立ち居振る舞いから立ち上ってくるのは、ナンバー2権力者という評判とはほど遠いメランコリーである。

 仮にクーデターか人民蜂起などが起こり、金王朝の宮殿が焼け落ちることになっても、彼女は大理石の階段に悄然と腰かけたまま、燃え崩れる円柱をぼんやりと眺めていることだろう。


 
  
 美女楽団の団長として訪韓した玄松月氏(↓)も、また絵画の中から現れた女性のように見える。

 彼女の画像を見ていて思い出したのは、ジェイムス・アンソールの「仮面たちの中の自画像」だった。
 ひしめく不気味な仮面の男女に交じって、一人だけ正気を保ったままこちらに視線を向ける男。

 「周りは化け物 !」
 おそらく、それは韓国の地に降りった玄松月氏の心境そのものだったに違いない。
 「国家としての威厳を失わないように」
 という絶対的な命令に服従するために、死を賭して韓国に乗り込んだ玄氏は、回りを取り囲んだ人間たちに気を許すことができなかった。
 だから、その表情は、アンソールの描いた「仮面の男女に囲まれた男=画家」の表情に似てくるのである。

 彼女が受けた命令がどんなものであったのか。
 それは下の絵を見るとよく分かる。
 ジョルジョ・ド・ラ・トゥールの描いた「いかさま師」。

 上の絵は、純朴な若者をトランプ賭博に誘い、女主人がまさにインチキを仕掛ける瞬間を描いたものだが、玄氏はその女主人とそっくりの目をしている。
 北朝鮮が、今度のオリンピックを利用して何を仕掛けようとしたのか。
 玄氏が、「いかさま師」の絵画に出てくる主人公と同じ目をしていることから、それが伝わってくる。

 国家の謀略を遂行するために、自分の生死まで捧げようとしている北朝鮮の美女たち。
 彼女たちは、いまどんな芸術家でも描き切れないような、憂いと虚無を内に隠した「禁断の笑顔」を獲得している。
 
 

カテゴリー: アート, コラム&エッセイ   パーマリンク

北朝鮮美女たちのメランコリー への5件のコメント

  1. 突如、参入して失礼いたします。ご迷惑とは存じますが、亀和田武さんとご連絡をとりたく、ご仲介の労をとっていただけないでしょうか。亀和田さんが『週刊朝日』昨年12月1日号の「マガジンの虎」欄にて、私ども10・8山﨑博昭プロジェクト編『かつて10・8羽田闘争があった[寄稿篇]』に言及されました。その文章を私どものウェブサイトに転載させていただきたく、ご許可をお願いしたいのです。亀和田さんのご連絡先を教えていただけないでしょうか。あるいは、亀和田さんから上記メールアドレス宛か、私の携帯電話(080-5014-8097)宛にご一報をいただけないものでしょうか。お手数をおかけして申し訳ございません。ぶしつけながら、よろしくお願いいたします。

    • 町田 より:

      >原田誠之さん、ようこそ
      お尋ねの件ですが、現在つてを頼って捜索中です。
      確かに、亀和田武さんとは学生時代に知り合い、社会人になってからもしばらくは交遊を続けていましたが、その後、お互いに多忙になってからはいつのまに疎遠になり、現在氏の連絡先等は一切把握できておりません。
      私自身も久しぶりに連絡をとってみたいと思い、氏に近かった友人に尋ねているところですが、その友人もいまだ探しあぐねているようです。
      もし亀和田氏の連絡先が分かったら、原田さんの希望をお伝えし、先方の承諾を得たのちに、個人メールの方に連絡を入れさせていただきます。
      今しばらくご猶予を頂ければ幸いです。
       

      • 原田誠之(10・8山﨑博昭プロジェクト 事務局) より:

        町田様。ご返事、承りました。ありがとうございます。実は、亀和田さんをネット上で探していたところ、町田様の前ブログ、2012年5月22日「亀和田武のキッチュな精神」の文章に出会いました。そのため、この度のお願いをした次第でございます。お手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

        • 町田 より:

          >原田誠之さんへ。
          誠に申し訳ございませんが、現在のところ、私ども(私と亀和田氏の昔の友人)では亀和田氏の連絡先をたどれない状態です。ほかにも何人かのつてを当たってみましたが、現在は亀和田氏が忙しいのか、親しくしている雑誌・書籍関係の編集者たちを介して連絡を受け取っているのではないかとのこと。
          引き続き、私も連絡待ちですので、何か進展したら、またご連絡を差し上げます。今のところはお役に立てず、もうしわけなく思っております。
           

原田誠之(10・8山﨑博昭プロジェクト 事務局) への返信 コメントをキャンセル

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