トランプ大統領が招く “魑魅魍魎” の世界

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 麻原彰晃率いる「オウム真理教」事件も今年の7月、麻原の死刑をもって、事件としての終焉を迎えたように見えた。

 しかし、世界は逆にどんどん “オウム化” しているように見える。
 言葉を変えていえば、世界中に魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)するようになってきた。

 その中心にいるのが、アメリカのトランプ大統領である。

 もうじきそのトランプ政権が運営したこの2年を評価する「中間選挙」が行われる。
 マスコミ報道によると、下院においては、トランプに批判的な民主党勢力が巻き返しそうだといわれているが、たぶん上院・下院とも、トランプを支える共和党勢力が僅差で勝利を手中にするだろう。

 なぜか。
 トランプ大統領は、もう「政治家」ではなく、その支持者たちにとっては「メシア」だからである。
 支持者たちは、彼に対し、救世主としてのカリスマ性を感じ、彼の言動や一挙手一投足に宗教的法悦を感じている。

 メシアが選挙に負けるわけがない。
 たとえ、一時的に政治的な敗北を被ったとしても、それは「メシア」が復活するための試練であって、逆に、より強力な存在として再び降臨するというメッセージとなる。

 トランプの教えの中核には、オウムの麻原彰晃と同じようなハルマゲドン(破滅に至る世界最終戦争)の思想がある。
 つまり、今のアメリカが、「(世界と)ケンカできるような力」を取り戻さないと、世界制覇を目指す中国や、大国復活の狼煙をあげたロシアとの最終戦争に敗れ、世界史の舞台から消滅する可能性があるというのだ。
 だから彼は、ことあるごとに、「ハルマゲドンによるアメリカの危機」を政治集会で訴える。

 オウムの麻原彰晃は、来たるべきハルマゲドンと向き合うために、自分たちの声に耳を傾けない一般人は見捨て、オウム信者だけの “オウム・ファースト” の世を目指して、地下鉄サリン事件などを起こした。

 トランプ米大統領の掲げる「アメリカ・ファースト」というのも、自分の信者の囲い込みを目指したものだ。
 そのためには、彼は、「トランプ批判者」と「トランプ信者」の分断を鮮明にし、自分の批判者たちをエモーショナルな言葉で攻撃し、信者たちの狂信的な情熱を煽り立てた。

 いま彼が進めている「移民排斥」、「性差別の再強化」、「女性蔑視」、「イスラエル寄り中東政策」、「核兵器の再開発」、「銃規制への反対」などといった物騒な右翼的・保守的政策は、すべて支持者たちの胸に炎を注ぐ “宗教的” メッセージといっていい。

 トランプはいったいどのくらい “魑魅魍魎(ちみもうりょう)” の世界を引き寄せたのだろうか。
 それは、今トランプ支持者たちの間に「Q Anon(Qアノン)」 … 短縮して「Q」と名乗る支持者層が広がっていることからも分かる。

 「Q」というのは、世の中の政治や経済をすべて “陰謀説” で解説しようとする狂信的なグループである。
 彼らの主張によると、世界は「ディープステート(闇の国家)」という陰謀集団によって牛耳られており、オバマもクリントンもみなディープステートの手先だったという。

 この世に戦争や貧困が絶えないのも、そのディープステートに属する金持ちたちが自分の私腹を肥やそうとしているからであり、彼らによって地球は崩壊させられる寸前のところだったというわけだ。
 そして、このような危機からアメリカを救うために “降臨” したのが、「救世主トランプ」ということになる。

 この「ディープステート」なる存在は、ある意味、トランプ登場前に世界中を巻き込んで進んでいた “グロバーリズム” の暗喩ともなっている。

 グローバリズムというのは、「資本主義は国境を超える」という思想に共振する経済システムで、文字通り、国家を超えた経済運動として世界中に浸透していた。

 トランプの「アメリカ・ファースト」(アメリカ第一主義)というのは、このグローバリズムに対する強烈なアンチテーゼになった。
 彼は、グローバリズムの恩恵を受けられるのは、「一部のエリート集団だけだ」と主張して、グローバル経済からとり残されていたプアホワイト層の支持を取り付けた。

 もともとトランプ支持者というのは、「反知性主義」を標榜することで知られている。
 「知性がない」という意味ではない。
 反知性主義とは、「知性を嫌悪する」思想 なのだ。

 彼ら “反知性主義者” は、「教養主義な会話」、「知性的な感性」をまき散らすエリート層に対する極端な反感を持っており、トランプの無教養なセンスこそが、彼らにとって、自分たちの反知性主義を代弁する者として映った。

 こういう反知性主義から生まれるのは、歪んだ都市伝説である。
 「ディープステート」という “悪の帝国” がひっそりと世界を牛耳っているという陰謀論も、そこから発生している。

 問題なのは、この「ディープステート」のような陰謀論が、今アメリカでは普通の教養を持った一般人にも広まっていることだ。
 現在、アメリカでは「知性」や「教養」よりも、「情熱」や「信仰」に比重を置く人たちが増えているという。

 その象徴的な例として、現在アメリカでは、ダーウィンの進化論を否定するキリスト教原理主義的な勢力が台頭していることを挙げてもいいだろう。

 その中心となるのは、プロテスタントの一派である「福音派」の信者たちで、彼らのなかには、自分たちの子供を学校に行かせない親もいるという。
 学校は、「人間は猿から進化した」などというダーウィンのインチキ思想を教えるところだから、そんなところに子供を行かせたら、子供に悪影響を及ぼすというわけだ。
 彼らにとって、人類の祖先はあくまでも神の創った「アダムとイブ」であり、それは科学などで冒すことできない永遠不滅の “真実” なのだ。

 こういう「福音派」といわれる人たちが、現在トランプの支持層の一翼をになっている。
 福音派はユダヤ教徒やユダヤ人勢力とは一線を画するが、宗教原理として、
 「エルサレムはキリスト教の聖地でなければならず、そのためには “聖地” エルサレムからイスラム教徒を追放しないといけない」
 という信念を持っている。

 トランプが、エルサレムにアメリカ大使館を移したりして、露骨にイスラエル寄りの政策を打ち出すのは、この福音派の支持を取り付けるためである。

 トランプは、いったいどういう世界から来た人なのだろうか。
 彼は、歴代アメリカ大統領のなかでも、もっとも鮮明に「反知性主義」を標榜した大統領である、
 なにしろ、彼は(知性の象徴である)本を読まないことを自分の “誇り” としている。

 彼が生涯で読んだ本はたったの2冊。
 1冊は、自分が書いた(とされる)本(『トランプ自伝』)であり、もう1冊は『聖書』である。

 この “自慢話” は何を意味しているのだろうか。
 「人は本など読まなくたって、大統領になれる」
 ということを、彼は露骨に言いたいのだ。

 そしてそれが、読書とは無縁な生活を送ってきた貧しい白人労働者たちへのエールとなり、同じように『聖書』しか信じない福音派信者たちへのメッセージともなった。
 
 このような「知性に対する侮蔑」を煽るトランプの “反知性主義” は、人間同士に様々な不協和音を与えることになった。

 人々のケンカや罵り合いは、「知性」が届かないところから発生する。
 「知性」というのは、おのれにとっては「恥を知る心」を意味し、他者に対しては「お互いのことを知る力」を意味するのだから、それが欠けてしまえば、人々の間にはケンカといがみ合いしか残らない。

 そういう不毛な “分断社会” が、トランプ政権のもとのアメリカで生まれ、それが世界中に広まろうとしている。
 フィリピンやブラジルでは、トランプを範とする排外主義的なリーダーが続々と登場し、「移民排斥」などを高く掲げて、自国の利益だけを優先する政治方針を打ち出すようになった。

 一方、自国の門戸を移民や難民にも開放して、人種間の対立を融和しようとしていたドイツのメルケル政権は衰退し、彼女自身が党首を降りなければならなくなった。

 世界の移民・難民はなぜ生まれてきたのか。
 それは、ここ20年ぐらいの間に、世界の経済格差が急激に広がったからである。(そのしわ寄せが中東や中南米に集中した)。

 それは、グローバル経済が、貧しい経済圏から富を収奪する形で進展していったからに他ならないが、今トランプは、グローバリズムを批判しつつも、そのグローバル経済によって富を得たアメリカ企業を、「自国経済優先主義」を掲げてさらに守ろうとしている。
 つまり、世界に新たな富の偏在をつくり出そうとしている。
 中国との貿易摩擦も、そういう観点で捉えなければいけない。

 世界はまさに弱肉競争が激化した19世紀末の帝国主義時代に戻ろうとしている。
 それは、怪しげな世界観が地球上を駆け回り、富の偏在と貧困が同時に発生する格差社会と戦争の時代に逆戻りすることを意味する。

 戦争は、合理的な世界観を持つ国家からは生まれない。
 「自国ファースト」という “麻薬” を使い、国民に怪しげな熱狂を焚きつけるリーダーのいる国から生まれてくる。
 その筆頭がトランプだが、プーチンも習近平も似たような傾向のリーダーだ。
 彼らはともに国民に「反知性主義」を焚きつける。

 世界は、トランプたちのおかげで、オウム真理教的な魑魅魍魎(ちみもうりょう)の影が色濃く覆う世の中になりつつあるといっていい。
 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

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