オールマン・ブラザーズ・バンドの「ジェシカ」

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 オールマン・ブラザーズ・バンド(写真下)の音を最初に聞いたのは、ラジオのFM放送だったが、あるいはFENだったか。
 放送局も番組名も忘れてしまったが、曲名だけははっきりしている。
 『ジェシカ』だ。

 1973年に発表された『ブラザーズ&シスターズ』のなかに収録された曲だが、私がそれを聞いたのは、1970年代の後半だった。
 当時、アメリカのバンドは嫌いだった。
 もともと、60年代から70年代初期にかけての自分の好みはビートルズ、クリーム、ブラインド・フェイス、レッド・ツェッペリンというブリティッシュ系ロックだった。

 その後は、R&B、SOUL MUSICという黒人音楽に興味が移り、ますますアメリカ白人のロックが嫌いになった。
 人種的偏見かもしれない。
 反知性主義的なアメリカの “白人文化” に対する名状しがたい嫌悪感があって、(それがいまだにトランプ大統領的な文化に対する嫌悪感として残っているが … )、まぁ、当時から、音楽においても、軽薄な白人文化の対極にある黒人音楽を偏愛するようになっていた。

 そういう自分の偏屈な好みを変えたのが、オールマン・ブラザーズ・バンドの『ジェシカ』である。 
 「あ、心地いい!」
 一回聞いただけで、思わずそう唸った。

 こういう躍動感を持った曲をそれまで聞いたことがなかった。
 自分が長い間肉体に蓄え込んできたのは、「ブルースの波動」であり、本家本元の黒人ブルースをはじめ、クリームやツェッペリンなどにおいても、ブルースに基本を置いたコード進行やリズム感が好みだった。

 『ジェシカ』という曲は、それをあっさりとくつがえした。

 なぜ、そういうことが起こったのか。
 この曲を聞いたとき、自分は自動車を所有するようになっていたのである。
 つまり、自動車の走行感覚にフィットする音楽というものを意識するようになっていたのだ。
  
 自動車を手にしたことは、新しい世界の扉を開いた。
 自分が大嫌いな音楽のなかに、ドライブミュージックとしては最適な曲があることを発見したからだ。
 その代表的な例が、ディープパープルの『ハイウェイスター』で、ラジオなどでこの曲が流れると、プチンとスイッチを切っていたが、カーラジオで聞く限り、これが妙に車の走行感とマッチすることを知った。
 
 ドゥビー・ブラザーズの『ロングトレイン・ラニング』なども好みの曲になった。
 あれは “トレイン(列車)” をテーマにした曲だが、やはり軽快なギターカッティングによる “疾走感” の表現が素晴らしいと思った。

 一方、テクノポップ系でも、“疾走感” を追求した音楽というものがあった。
 ドイツのクラフトワークである。
 彼らには『アウトバーン』(写真下)という曲があって、これはドイツのアウトバーンの走行感覚を無機的な電子音でなぞった音楽として一世を風靡した。 

 ハイウェイ
 トレイン
 アウトバーン

 自動車に乗るようになって、世の中には、モビリティーをテーマにした音楽というものがたくさんあることに気づいた。
 それらは、室内の固定した環境で聞いているかぎり何の感興もわかないことが多いが、「リスナーの肉体が音楽といっしょに水平移動するとき」に聞くと、がぜんそれまでとはうって変わって刺激的な音に生まれ変わる。

 しかし、オールマン・ブラザーズ・バンドの『ジェシカ』は、もう机の前に座って聞いただけで、自分が運転しているときの情景が浮かんだ。

 そのとき脳裏に浮かんだのは、アメリカ中西部あたりに広がる乾いた荒野だった。
 そして、そこを貫いて地平線まで伸びている一本道。
 「この曲を聞きながら、そんなところを走ってみたい !」
 そういう衝動を強く喚起する音だった。

 アルバム『ブラザーズ&シスターズ』に収録されている『ジェシカ』の演奏時間は7分28秒だ。
 
 アコースティックギターのカッティングに始まり、それにディッキー・ベッツ(写真下)の奏でる主旋律が重なっていく。
 ディッキー・ベッツのギターは、どことなくカントリーフレイバーが効いていて、いい意味で軽い。
 苦悩も内面的な深みもないかわりに、陽光のきらめきを感じさせるような、あっけらかんとした明るさがあって心地よい。
 これを聞いた後は、そういう「アメリカ白人の楽天主義もいいものだ」と思うようになった。

 『ジェシカ』では、このディッキー・ベッツのギターを引き立てるように、2台のドラムスとベースのリズム隊が、レシプロエンジンのピストン運動を想像させるような軽快なリズムを刻み続ける。

 聞きどころは 2分30秒を過ぎたあたりから始まるチャック・リーヴェルのピアノソロ。
 多少、えげつない表現を使えば、この個所から、ベッドの上で上下動する男女が、来たるべくエクスタシーを予感し、リズム隊と呼吸を合わせて、絶頂を迎えようと準備を始めた気配が伝わってくる。
 
 ピアノの音が、海面を跳ねるイルカのように踊り始めると、それに呼吸を合わせて、リズム隊が追う。
 いよいよそのときが迫る。
 チャック・リーヴェルのピアノソロからバトンを受けて、ディッキー・ベッツのギターソロが始まる瞬間が、そのときだ。
 リスナーの頭の中で “何か” が弾ける。

 そのとき、リスナーが口にするのは、
 「来た ! 来た !」という言葉だ。
 運転していると、もう本当にヤバイ。
 
 この『ジェシカ』は、リスナーに何を伝えようとしているのだろうか。
 本当によくできたドライブミュージックには「性交の快感」があるということを教えようとしているのだ。
 つまり、モビリティの本質が “エクスタシー” にあることを伝えようとしている。

 『ジェシカ』については、別のWEBサイトでより詳しく書いた。
 興味をお持ちの方は、そちらも開いてみてほしい。
 (↓) 
  「ドライブにふさわしい音楽のハナシ」 
 https://www.gogo-gaga.com/posts/5131079?categoryIds=1485906
  
  
▼ オールマン・ブラザーズ・バンド 『ジェシカ』

 
 

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