ロシア絵画の不思議な奥行き

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 「東京 富士美術館」(東京・八王子市)で開かれている『ロシア絵画の至宝展』という美術展を観に行った。
 今回集められた絵画の大半は、19世紀中頃に描かれたもので、テーマはロシアの自然を描いた風景画、および庶民の日常生活の1コマを切り取ったものだった。
 

▼ ウラジーミル・マコフスキー 「夜の牧草地」

 この美術館には、ヨーロッパの古典絵画や近代絵画をそろえた常設展示場もある。
 しかし、今回「特別展」に運び込まれた “ロシア絵画” のコーナーに足を踏み入れると、そこから空気が変わる。
 
 
▼ アレクセイ・サヴラーソフ 「沼地に沈む夕日」

 ヨーロッパでもなければ、アジアでもない。
 「ユーラシア」という言葉が当てはまるのかどうかも、分からない。

 ここに集められた風景画を、いったいどのような言葉で紹介すればいいのだろうか。
 うまい言葉が見つからない。
 それほど、19世紀中期のロシアの大地が、いかに我々のイメージが及ばないような世界であったかということを、あらためて知る思いだった。
 
 
▼ アルヒープ・イヴァノヴィチ・クインジ 「虹」

 
 一目見て感じたのは、ロシアの大地を描いた風景画には、どれも得体のしれない “奥行き” があるということだ。
 「広大」とか、「雄大」という言葉でもっても言い尽くせない。
 そういう「水平的な広がり」とはまた別の、「奥行き」の深さに吸い込まれそうになるのだ。

 つまり、絵の “果て” が、地平線で終わっていない。
 地平線のその先に、さらに果てしない “何か” が続いている。
 
 
▼ イサーク・レヴィタン 「ウラジーミル街道」

 我々は、日本の風景のなかに「地平線」を見ることはできないが、アメリカ大陸や中国大陸、ヨーロッパ大陸の大地を絵画や写真あるいは映画を見ることによって、「地平線」というものを画像体験することができる。
 そして、それは、「地平線」という水平ラインで閉じられることによって、いちおう視覚的に完結する。

 だが、ロシア絵画に描かれる「地平線」は、けっして完結しない。
 絶えず、その奥にある世界を喚起してやまない。
 
 雪原の彼方にはシベリアの凍土が広がっており、やがては北極まで続く大地が伸びているように思える。
 
 
▼ フョードル・ワシリーエフ 「雪解け」

 白樺の森は、そのまま進んでいくと、いつしか熱帯雨林に紛れ込んでいきそうな気配がある。
 
 
▼ イヴァン・シーシキン 「カバの森の中の小川」

 
 常にここではない、どこか。
 それを暗示するのが、ロシアの風景画だ。
 そしてそれこそ、ロシアの大地が本来秘めている魔法の力なのだろう。

 おそらく、19世紀のナポレオンも、20世紀のヒトラーも、これにやられたに違いない。
 彼らの軍隊は、モスクワを目指して進軍しているうちに、大地がどこまでもどこまでも後退していく恐怖を味わったことだろう。
 
 
▼ イヴァン・シーシキン 「嵐の前」

 「後退していく地平線」は、限りなく「水平線」に近づく。
 いくら地平線を見渡せる大地に踏ん張ろうとも、彼方の風景がゆらいでいけば、自分の立っている足元も崩れていくことになる。

 それは、足元が海面に浸されていることと変らない。
 人間は海の上には立てない。
 今回の「ロシア至宝展」の目玉であるイヴァン・アイヴァゾフスキーの『第九の波涛』という絵画は、そのように見ることも可能だ。 
 
 
▼ イヴァン・アイヴァゾフスキー 「第九の波涛」

 絵画には、鑑賞者がそれまで見たこともないような光景を見せてくれる力がある。
 それは、テレビやCG映画の画像喚起力より数千倍まさる。
 なぜなら、そこには画家の頭脳に降臨した想像力のバイアスがかかるからだ。
 たぶんロシアの大地には、画家の想像力を引き出す特別の魔術があるのだろう。
  
  

カテゴリー: アート, コラム&エッセイ   パーマリンク

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