平然とウソをつける独裁者(トランプ)の誕生

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 世界史のページには、一つの世紀に、必ずその世紀を代表する独裁者の名が刻まれる。
 近現代史においては、18世紀のルイ14世、19世紀のナポレオン、20世紀のヒットラーとスターリン、そして、21世紀のドナルド・トランプである。

 これらの独裁者は、歴史上「英雄」として崇められることもあれば、人類に不幸をもたらした最悪な統治者として名を残すこともある。

 今のところ、トランプ米大統領がどっちに入るのかは誰にも分からない。

 ただ、トランプ氏の登場が、現代史における政治リーダーのあり方を根本的に変えてしまったことだけは事実だ。

 どういう変化が生じたのか?
 誰にも分るような「ウソ」を平然とつき通す政治リーダーというものが、この世界にはじめて登場したのだ。


  
 
「地球温暖化説はでっち上げだ !」

 たとえば地球温暖化という問題。
 2018年という年は、世界のどこの国においても、深刻な自然災害に見舞われたが、その原因は地球温暖化によるものだと推測された。
 そして、その温暖化の主な原因は、人間の産業活動による温室効果ガスの増加である可能性が極めて高いという分析が支配的になった。

 これに呼応し、各国は「パリ協定」なるものを定めて、温暖化対策に取り組む姿勢を見せ始めた。

 しかし、トランプ大統領は、
 「地球温暖化なんてウソだ。そんなバカバカしいことを信じてはいけない」
 と平然と言ってのける。

 専門家によると、トランプ氏の主張にも一理あるという。
 地球温暖化の原因は、人間の産業活動による温室効果ガスだとは、まだ100%言い切れる段階ではないからだ。
 しかし、その可能性は99%に近く、残りの1%が証明される時には、地球はもう取り返しのつかない状況に追いやられているといわれている。

 当然そういう報告がトランプ氏の耳に届いていないはずはない。
 しかし、アメリカ国内の石油産業、石炭産業の振興を押し進めているトランプ氏にとっては、地球温暖化対策などよりも、それらの産業に従事している有権者の票田の方が大事である。
 だから、彼は平然と「地球温暖化説はでっち上げだ !」と言ってのける。
 
 
文明社会にはじめて登場した
新しいタイプの国家元首

 作家の佐藤優氏と、ジャーナリストの池上彰氏は、『知らなきゃよかった』(文春文庫 2018年)という対談集で、次のように語っている。

【池上彰】 (トランプは)自分に都合の悪いことは全部ウソだ、フェイク・ニュースだと言えばいいと思っています。これまでの文明社会はそういう政治家を想定していなかった。
 とりわけ、メディアはまったく想定していなかった。だから(各メディアが)いま彼を攻めあぐねているわけです。
【佐藤優】 僕が外交官だったときは、各国の首脳の間には「お互いに本当のことを全部いわないまでも、ウソはつかない」という了承がありました。しかし、ついにトランプという平然とウソをつく国家元首が現れた。これによって(国際社会の)ルールが変わりました」

 そういう大統領が現れたことによって、世界はどうなっていくのか。
 佐藤氏によると、(政治の場でも生活の場でも)人間同士の信頼の基礎が崩れ、最後は「血がつながっているとか、セックスでつながっているだけ」の人間関係しか残らなくなるという。
 
 
 しかし、なぜアメリカでは、そういう “ウソつき政治家” への支持率が相変わらず高いのか?
 
 同著の対談で、佐藤氏はこう語っている。
 「トランプ支持層のコアになっているのは、低所得で低学歴の白人労働者たちです。彼らは、アメリカ国内の白人が今世紀中に少数派に転落することを知っている。
 だから、移民の締め出しなど、トランプが押し進める政策は、彼らにとって、自分たちの生き残りを保証してもらう “最後のチャンス” なのです」

 トランプ支持者たちは、とにかく自分たちの怒りを代弁してくれる政治家の出現を待っていた。

 ただ、本当のことをいうと、「怒りの矛先」は何でもよかったのだ、という。
 彼らは、ただ自分のうっ憤を晴らす対象を求めていたにすぎない。
 トランプは、そういう彼らの気持ちを読み、「移民が悪い」「民主党が悪い」「エリート支配が悪い」「マスコミが悪い」というメッセージを吹き込んだ。
 これが、気持が沈みっぱなしの状態にいた彼らに、生きる活力を与えた。
 
 
小学生レベルの演説が
逆に効果を発揮した

  
 そしてまた、トランプは、そういう自分の支持層に対する演説もうまかった。
 彼は、歴代の大統領が演説に使うような格調高い言葉をまったく使わなかった(使えなかった)。
 だから、彼の演説は小学生ぐらいの知力があれば、誰にも理解できた。
 
 佐藤優氏はそのことを、文法的にこう分析している。
 「トランプの演説は、発言中に接続詞(And、But、Because、However、If)を使わないところに特徴がある」
 
 接続詞とは日本語でいう、「だから、それで、しかし、および、たとえば」などであるが、そういう言葉が出ない会話においては、名詞や動詞のキャラ立ちが強調される。
 
 つまり、トランプ氏の演説ではぶつ切りの名詞と動詞が、それこそCMのキャッチのように繰り返されることによって、一種の催眠効果のようなものが生まれるのだ。
 「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン !」
 なんていうセリフは、アメフトで優勝した選手がヒーローインタビューの最後に叫んでも決まるだろうし、コカ・コーラのCMで謳われてもおかしくない。
   
▼ 池上彰氏(左)と佐藤優氏(右)

 
 
SNSの普及によって国語力が低下していく時代
 
 「簡単な言葉で埋め尽くされる世の中」。
 佐藤氏も池上氏も、その怖さを指摘する。

 トランプ氏の政治的メッセージの大半は、ツィッターによって発信される。
 その大半は話し言葉であり、しかも語彙が少ない。
 もうそのこと自体が、文章を読み込む能力のない人や、難しい言葉への嫌悪を抱いている人たちへの “心地よい” メッセージとなる。
 
 SNSによる国語力の低下は、いま世界中に広まっている。
 佐藤氏はいう。
 
 「(日本の)インターネット社会でも、SNSの普及によってパソコン時代のメールとは違う文化が生まれています。
 たとえばスマホにおけるLINEのやり取りなどは、もうすべて話し言葉になっていて、ボキャブラリーが乏しくてもコミュニケーションが成立します。
 そうなると、人々の読む力も落ちてきて、知的能力が全般的に下がる心配が出てきます」

 その先に生まれてくるのは、知的能力を維持した少数のエリートたちが、知的能力を育てなかった大衆をいいように支配する冷たい格差社会だと佐藤氏は指摘する。
 
 
流動的な国際情勢が独裁者を生む
 
 現在強権をふるう世界の独裁者たちは、このような格差社会の広がりを前提に登場してきた。
 中国の習近平主席
 ロシアのプーチン首相
 アメリカのトランプ大統領

 彼らが台頭してきた背景には、みな格差社会の広がりの果てに生まれてきた経済弱者、社会弱者、教育弱者の存在がある。

 弱者たちにとって、切実な問題は、「地球温暖化」や「環境保全」などではない。
 「失業率の低減」、「雇用の確保」、「賃金上昇」などといった生活的課題の方が優先される。

 これに関しても、トランプ大統領は非常に “賢明な(?)” な方針を貫いているともいえる。
 失業問題も、雇用問題も、賃金の確保も、トランプ支持層の白人たちからすれば、「移民の流入阻止」という一点に集約されるからだ。
  
  
判断が間違っていても、独裁者の
“即断即決” の方が優先される

 
 プーチンや習近平、トランプのような独裁者たちの登場は、また国際社会がきわめて流動的になってきたという別の側面からも解明できるとか。

 「彼らが独裁的な傾向を強めているのは、彼らの権力欲だけでは説明しきれない」
 と佐藤氏。

 「国際社会の変化がこれほど激しくなってくると、これまでのような民主主義的な手続きをとっている時間がなくなってくる。そのため、国民も政府も、(たとえ方針が間違っていても)即断即決によって事に対処できる独裁者を求めるようになってくる」
 … のだとか。
  
 ビジネスの面でも同じことがいえる。
 佐藤氏は、ひとつの例を出す。
 
 「各国において、電気自動車(EV)への取り組みが加速しているが、それには蓄電池技術がカギを握る。そうなると、レアメタルが絶対に必要になる。
 現在のところ、それを供給してくれる国は中国とボリビア。この資源争奪戦にはかなりの “反射神経” が必要で、入札のような民主主義的手続きをしていたら間に合わない」
 
 つまり、表に出る部分と裏に隠れる部分を瞬時に差配する独裁的な政治リーダーの手腕が必要になってくる。
 
 「国際情勢の流動化」というのは、そういうビジネスと政治が同時並行的に進んでいく状況をいう。
 要は、どこの国においても、権力者の独裁が簡単に成立する土壌ができあがってしまったということなのだ。

 佐藤優氏との一連の対談が進んでいくなかで、池上彰氏はこういう。
 「こういう国家の仕組みが定着していくことで、トランプ型の人間がデフォルト(標準設定)になっていくと考えると、ほんとうに恐ろしい」
 
 池上氏のそうした危惧は、今後ますますはっきりしたものになっていくのだろうか。
 それとも、トランプ現象は一時的なものでしかないのか。
 トランプ大統領が登場した「今」という時代が、人類の「ポイント・オブ・ノーリタ―ン」を示す分岐点になる恐れは十分にある。
  
  
参考記事 「トランプ時代に対してマイケル・ムーア監督が語る『民主主義』の危機」
 
参考記事 「トランプ大統領が招く “魑魅魍魎” の世界」
  
 

カテゴリー: コラム&エッセイ, 映画&本   パーマリンク

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