映画・ドラマ悪役列伝

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『下町ロケット』などの最近の
ドラマでは今や悪役が “主役”

 
 最近のTVドラマを観ていると、まるで悪役の方が “主役” であるかのようなつくりになっているドラマが増えてきた。

 この12月に最終回を迎えたTBSの『下町ロケット ヤタガラス』などは、主人公の阿部寛よりも、憎まれ役の神田正輝、古館伊知郎、尾上菊之助、福澤朗などの方が生き生きとした演技を見せていた。

 池井戸潤の原作をドラマ化したものからは、よく “好悪役” が生まれる。
 たとえば、『半沢直樹』で嫌味な銀行支店長を演じていた石丸幹二。 
 このときの意地悪役のインパクトが評価され、今ではCMなどでも大活躍だ。

 『陸王』では、最初は意地悪なシューフィッターとして登場していた市川右團次が、後半では主人公側についたことで人気沸騰。ドラマが終わっても、俳優、タレントなど、本業の歌舞伎以外でも引っ張りだこだ。


 
 池井戸ドラマというのは、時代錯誤もはなはだしいほどベタな勧善懲悪ドラマだから、とにかく悪役が目立たないと、ドラマそのものが盛り上がらない。
 『下町ロケット ヤタガラス』では、普通だったら主役を張ってもいいような神田正輝や尾上菊之助が、ことさら憎々しげな表情をつくって嫌われキャラを演じたが、それぞれ見事な悪役ぶりで、私の個人的な評価は上った。


 
 
松田優作の悪役ぶりは天下一品だった
 
 主役も悪役も両方こなす名優を過去の例から探るとなると、まずその筆頭に挙がるのは松田優作である。
 彼は、『太陽にほえろ!』の刑事役でデビューして以来、主役以外に抜擢されることがほとんどなかった役者だが、1989年のハリウッド映画『ブラックレイン』(リドリー・スコット監督)においては、新興ヤクザのボスを演じて鬼気迫る名演を見せた。

 このとき、松田優作はガンに侵されていた。
 しかし、彼は延命治療を拒み、周囲にも病状を明かさず、初のハリウッド映画でもらった大役に文字通り「命をかけて」挑んだ。
 そのせいか、このときの演技は、何かが “憑依した” と思えるほど怖かった。
 まさに、「狂気」が、“人間の皮” をかぶっているというような不気味さを漂わせる演技だったのだ。

 結局これが彼の遺作となったが、私が思い出す松田優作の姿といえば、ほとんどこの『ブラックレイン』のときの悪役である。

 魅力的な悪役が生まれるかどうかは、けっきょく演じる役者の演技の幅にかかっている。
 極端から極端へ。
 温厚で誠実な人柄を演じることの上手な役者が、あるとき観客が顔をそむけたくなるような嫌らしい悪役を演じ切ったりすると、観客は役者の演技力の幅に圧倒されて、その才能に惚れ直す。 
 
 
加瀬亮の二つの顔
 
 役柄の幅の広さという意味では、加瀬亮という俳優が好きだ。
 誠実で、謙虚で、温厚で、はにかみ屋。
 そういうおとなしい役柄を演じるには、この人しかいないというほどの説得力を身につけており、事実そういうキャラクターを生かしたドラマやCMなどによく起用される(写真下 住友林業のCMに登場する加瀬亮)。

 ところが、彼は、北野武監督の『アウトレイジ』(2009年)、および『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)では、それまでのイメージを根底から覆すほどの陰湿なヤクザを演じ切った。
 これはこれで、素晴らしい役作りだった。

 なにしろ加瀬亮が演じる「石原」というヤクザは、ケンカに弱く、小心者のくせに、頭だけはクルクル回るので、経済ヤクザとしての才覚を発揮。いつのまにか組織の上層部にのし上がっていく。
 親分にはめちゃめちゃゴマを擦る一方で、子分たちには理不尽な難癖をつけていじめ倒す。
 人間としての優しさなどどこを探しても見当たらないほど性格は冷淡。
 恩ある人々への裏切りも日常茶飯事。

 そういう、観客が顔を見るのも嫌になるくらいの憎たらしいヤクザの役を、加瀬亮は完璧といえるくらいの演技力で演じ切ったのだ。

 それを観て以来、私は優しくて誠実な役柄を演じている加瀬亮を見ていても、その演技力の底に流れているものに、すごく関心を抱くようになった。
 つまり、嫌らしいヤクザの役も温厚な青年の役も、どちらも彼の演技力がもたらしたものだとすれば、その演技の深さに敬意を表さないわけにはいかなくなった。
 

 
 
深水元基にも注目している
 
 ヤクザ映画というわけではないが、やはりアウトローの集団を描いた最近の映画で出色なのは園子温監督の『新宿スワン』(2015年)、および『新宿スワンⅡ』(2017年)である。
 
 この2作で、私が注目したのは深水元基という役者だった。
 彼は、主人公の「白鳥龍彦」(綾野剛)が所属するスカウト事務所「バースト」の最強武闘派幹部「関玄介」(写真下)という役で登場する。


 
 武闘派を任じる「関」は、対立組織がどれほど人をそろえてケンカを売ってこようが、いつもたった1人で立ち向かい、自分が瀕死になるまで戦い抜いて、相手グループにも深手を負わせる。
 187cmという長身から繰り出すパンチと蹴りの映像は、かなりの迫力を伴う。

 だが、深水元基の凄みは、それだけにとどまらない。
 本当にすごいのは、その狂気を宿した “目力(めぢから)” にある。
 「ヤバイ !」のだ。

 「ヤバイ」という言葉が本来持っていた「危険だ!」という意味と、最近の用法として定着してきた「魅せられる!」という両方の意味において、深水の演じる「関」という男の目つきはヤバイ !

 新宿の歌舞伎町あたりで、こんな目つきのこわもての男が近づいてきたら、普通の人間は、まず恐怖におびえて後ずさるか、もしかしたら、その目に魅せられて、穴のあくほど目の奥を見つめてしまうかもしれない。

 これもやっぱり、役者の演技力がつくりだした “目” であると思う。
 
 で、この深水元基氏。
 普段はこんな(↓)く穏やかな表情をたたえるごくごく普通の役者さんである。

 ただ、もともと端正な顔立ちの人なのか、戦国時代の武将の役などを与えられると、それなりにストイックできりりとした相貌を顔に浮かべる。

▼ NHKの大河ドラマ『真田丸』で福島正則の役を演じた深水元基

 
 加瀬亮も、深水元基も、まだ単身で主役を張れるほどの大きな役をもらっていない。
 しかし、いまの時代は主役に抜擢されなくても、魅力的な悪役を演じ切った役者の方が視聴者や観客のウケがよい時代になってきた。
 私は彼らの活躍ぶりに注目していく。
 
 

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