亡くなった親父の夢

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 24年前、「阪神淡路大震災」が起きた日が親父の亡くなった日だった。

 偶然の符号というのか、「関西で大惨事」というニュースが東京のワイドショーで一斉に速報される時間と重なるように、「親父が危篤」という知らせが病院から届いた。

 病院に駆けつけると、親父はすでに、ベッドの上で医師の手による人工呼吸の最後の処置を迎えていた。
 もう家族には何もすることができない。
 ただ、呼吸が途切れる最後の瞬間を見守ることしかできない。

 病室から外れた廊下のどこかで、阪神淡路大震災の被害状況を伝える報道が小さな音で流れていた。

 行方不明者がたくさん出た震災の悲惨さに比べ、こうやって親父の死に目に会えるだけ、まだ幸せな方か … と自分を慰めてみたが、自分の体を満たす喪失感のようなものが薄れることはなかった。
 
 懸命に介護に当たってくれた医師の身体が親父から離れたとき、親父の「魂」が身体から抜けたことを知った。
 
 すでに、親から自立した生活を営むようになっていたが、父親が死ぬということは、こんなに心細い気持ちにさせるものなのか、と知って、茫然となった。
 大地に立っている自分の足が、やけに細く、頼りないものに感じられた。

 それからしばらくは、ときどき親父が夢に現れた。
 夢のなかの親父は、いつも痩せほそり、言葉も少なく、もの憂げであった。
 
 
 その頃見た夢で、印象に残っているものがある。

 夢のなかの私は、仕事仲間と一緒に古めかしいホテルにたどり着く。

 フロント脇にくすんだロビーがあり、その一角に置かれたソファーに、なんと親父が座っている。
 既に死んでいるわけだから、当然幽霊である。
 しかし、あまりにも生々しいので、幽霊とは知りながら、
 「おいおい、どうしてこんなところにいるんだ?」
 と近づいて声をかける。

 私は、親父の肩に手を置き、
 「今から仕事ですぐ出かけなくてはならないが、必ず戻るからここで待っていてくれ」
 と言い残して、その場を去る。

 仕事から帰ってくると、ホテルのロビーには人影もなく、ソファーに座っていたはずの親父の姿が見えない。

 私はホテル中を歩いて親父の姿を探す。
 レストランにも、バーにも、客室の通路にもいない。

 フロントに戻って、「体の悪そうな老人がソファーに座っていなかったか?」と尋ねる。
 するとフロントマンが、「その方なら、先ほどチェックアウトされましたよ」と答える。

 「どこに行くか、聞いていませんか?」
 「なんでも、旅に出られると言っていました」

 さらに、フロントマンはこう続ける。
 「杖を突いて、辛そうに出て行かれましたから、最後の旅になりそうな感じでした。もう一度このホテルをご利用されるお元気があればいいと祈っていますけどね」

 私は、もう幽霊としての親父にも会えないような気がして寂しくなる。
 そこで目が覚める。
  
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

亡くなった親父の夢 への2件のコメント

  1. Get より:

    お邪魔します、Get です。

    私も1週間ほど前に亡父の夢を見ました。
    父の実家である本家に遊びに訪れていた父から電話があった。
    父曰く、本家では後日法事を行うと言うことを聞いたので、自分も参列したい。
    それで暫くは家には帰らないから、と家人に告げたという。
    大正生まれの父が亡くなったのは丁度40年前。
    父等が法事する縁者は明治、江戸末期の縁者達。
    彼岸の者等も亡き家族の法事を執り行うのかと、感じ入りました。
    声も聞けず姿も見えぬ父の夢をはっきりと見て、夢から覚めました。

    • 町田 より:

      >Get さん、ようこそ
      味わい深い不思議な夢ですね。

      死んだ親たちの夢というのは、大人になって見る夢のなかでは、割と頻度の高いものなのかもしれません。
      そこには、「生前十分な親孝行をしてやれなかったなぁ … 」という悔恨の情とか、「どこかで会って甘えたい」という気持ちとか、いろいろな感情が心の底に溜まっているからなんでしょうね。

      死んだ親の夢というのは、どこか切なく、さびしく、でも不思議な温かさもあって、しみじみとした気持ちになります。

      特に、自分が年をとってくると、心のどこかで、「もうじきそっちに行ってやるから」というような思いも強くなっていくような気もします。
       

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