怖い短歌をつくる人

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 知人の勧めに従って、「短歌の会」というのに入った。
 月に一回程度、自作の歌を持ち寄り、合評会を開くという。
 参加者は地元のご老人が中心。

 知人がいうには、
 「短歌などつくったことのない人ばかりの集まりなので、最初は “凡作・駄作” の寄せ集めだったが、切磋琢磨しているうちにみんなのレベルも上がり、和気あいあいとした交流が生まれている」
 とか。

 最初は断ろうと思った。
 短歌のようなものを観賞するのは、特に嫌いではない。
 しかし、自分でつくるほどの才能があるとも思っていない。
 まず第一に、面倒くさい。

 しかし、誘ってくれた “知人” には恩があるので、むげに断れない。

 喫茶店で1時間あまり話をしているうちに、
 「とりあえず何作かつくってみて、合評会の様子も見学し、その後に入会するかどうか決めればいい」
 ということになった。

 そういう流れに乗ってしまうと、もはや断れないということは分かっていたが、喫茶店の窓から眺める外の陽射しも穏やかで、コーヒーもうまかったので、ついついその人の誘いに応じることになった。

 好奇心というやつである。
 自分も68歳になったので、もう立派な “老人” である。
 しかし、“本格的な老人” たちとの付き合いがない。

 ゲートボールもやったことがないし、地元の「老人会バス旅行」みたいな行事にも参加したことがない。
 「早起き老人クラブ」(← そんなものがあるのかどうか知らないけれど … )が公園でやっているラジオ体操みたいなものにも興味がない。
 自分が老人でありながら、老人との交流がないのだ。

 だから、老人の実態調査をするうえでも、こういう会に顔を出すのはいいチャンスかもしれないと思った。

 声をかけてくれた知人から、さっそく歌をつくってくれという手紙が届いた。
 サンプルとして同封されていた作品集を眺めてみると、かなり本格的で正統的な歌ばかりである。

 たとえば、
 「まだ散らぬ紅葉と 池の時止まり 鯉たちだけがゆくり泳ぎて」
 「元号が変わる前にと急ぐのか 喪中はがきの多くなりけり」
 「石ノ森章太郎のマンガ読み 思い返すは 昭和のぬくもり」
 
 “素人っぽい” といえばそれまでかもしれないけれど、情景や作者の気持ちが的確に描き込まれていて、それなりのワザが感じられる。2~3作程度の練習ではここまで到達できないことは、すぐに分かった。

 はたと困った。
 こういうレベルまでたどりつくのも大変だが、その前に、何も思い浮かばないのだ。

 悶々としているうちに、たまたまテレビから流れていたワイドショーが若者のインスタグラムブームを特集していた。
 …… おお、これかぁ … と思ってさっそく一首ひねってみた。

 「元カレのインスタ見つけて悪ふざけ 十代の女に化けて “いいね” 押す」

 自分自身はインスタもやったことがないし、他人のインスタを見て「いいね」ボタンを押したこともない。
 だから、インスタの実態などよく知らないのだが、なんとなく今の世相に絡んだような歌をつくってみたかったのだ。

 しかし、この歌が「怖い」という評価を下された。
 はじめての合評会に顔を出したときのことである。

 市民会館の会議室で開かれた発表会には、12~13人の参加者が集まっていた。
 年の頃でいえば、60代後半から70代後半ぐらい。
 男性は、自分を含めて3人。
 残りすべては女性であった。

 まず、参加者が提出した短歌を、みんなが順番に読み合う。
 次に、司会者に指名された人が、読み上げられた作品について、その感想を述べる。
 最後に作者自身が、作品を思いついたきっかけなどを解説する。
 
 で、私の短歌が読み上げられる番が来たとき、指名された女性が、
 「これが当たっちゃったのかぁ !」
 と苦笑いを浮かべた。
 今まで提出されたことのない作風だという。
 「どう解釈していいのか戸惑っていた」というのだ。

 多くの参加者が、私の歌に次のような批評を寄せた。

 「インスタ」という言葉の意味が解らない。
 「“いいね押す”」という表現も何のことか不明。
 また、「元カレ」という言葉を使うかぎりは、作者は女性であるはずなのだが、それを男性が読んでいるためにイメージが混乱する。

 なかには、こういう感想を述べた女性もいた。
 「こういう歌って、なんだか怖い」

 「下手」であるとか、「凡作」であるとかいう批評は覚悟していたが、「怖い」という評価は予想外だったので、かえって興味がつのった。
 そのとき、はじめて、「怖くない短歌というのはどういうのだろう?」という好奇心が湧いた。

 参加者からの感想が収まった頃、リーダー格の女性がまとめてくれた。
 「これ、はじめてつくった歌なんでしょ? 誰でも最初はそんなものですよ。
 でもね、めげることはありません。そのうちコツが分かるようになりますから」

 つまり、“作品以前” ということらしい。
 したがって、この歌に関しては、添削もなし。
 「別の作品を提出するように」といわれただけだった。

 
 合評会に出した短歌は、“無評価” で終わってしまったが、会自体は、とても面白かった。
 こういう会は、脳細胞の活性化をうながす。
 自分の短歌を作ることも想像力を刺激するいいチャンスとなるが、人の作品の感想を述べることも大事な脳の訓練となる。

 私にも、よその人の作品について述べる機会が何度か回ってきた。
 当てられた瞬間、いうべき言葉を急いで探す。
 作者の意図は何か?
 使われている語句が適切かどうか?
 瞬時に判断し、頭をくるくると回転させなければならない。
 そういう作業は知的な緊張感をはらみ、それが心地よい刺激を生む。

 
 発表会が終わった後、近くのファミレスで “お茶” となった。
 私の周りを取り囲んでくれたシニア女性たちが口々にいう。

 「ほんとうに常識的な方でよかったわ。ああいう歌を提出されたので、どんな方が来るのか、ほんとうは怖かったの。でも普通の人でよかった」

 ふ~む … 。
 「インスタ」をテーマにしただけで怖がられるのか … 。

 私はニコニコと対応しつつ、内心、「大変な会に入ってしまったものだ」という気持ちも少しだけ抱いた。
 
 

カテゴリー: コラム&エッセイ   パーマリンク

怖い短歌をつくる人 への2件のコメント

  1. Take より:

    人間は所詮、保守の動物なんでしょうね。自分のキャパから飛び出すのは勇気がいる。
    すでに出来上がっているサークルに入る勇気のほうが大きいけれど、多勢で待つ側の人たちも新しい参加者に興味半分不安半分。
    そこに聞いたことのないカタカナ語の短歌が入ってきたもんだからもうパニックで、それが怖いという言葉につながったのかな?などと勝手な解釈で読ませてもらいました。
    しかし匿名性の高いインターネットの世界は怖いですね。ネカマという言葉がはやりましたが、相手がどういう方かは性別・年齢全く分からない。本当かどうかも疑心暗鬼。そうした句の内容が怖いならともかくですが…。
    なんだかサラダ記念日を思い出しました。

    • 町田 より:

      >Take さん、ようこそ。
      コメントありがとうございます。
      ≫「人間は保守の動物 … 」
      まったくその通りですね。はじめて接するものには警戒心が働く。
      そういう心があったからこそ、人類は身に迫る危険を事前に察知する能力をつちかうことができたのかもしれません。

      ま、それはいいとして … 、今回の短歌の会のサークルで、私の処女作が “怖がられた” というのは、もちろん聞きなれないカタカナ語が混じっていたということもあるのでしょうけれど、それ以上に、この歌からにじみ出ていた “謙虚さの喪失” が、参加された方々の心に影を投げたのではないかと思っています。

      私自身が、古典短歌の “花鳥風月” を敏感に感じ取る訓練をしてこなかったばっかりに、面白おかしそうな現代短歌を詠むことばかりに気をつかってしまったようなところがあります。
      それが歌として説得力があればまだしも、作品としても体裁をなしていなかった。
      そういう凡作を、堂々と提出してしまった。

      たぶん、皆様が感じられた「怖い」という感覚は、そういう私の “謙虚さの喪失” が、場の空気として滲み出たことへの反応だという気もいたします。
      そういうことに気づいた分だけ、これは一歩前進ですね。

      「ネカマ」という言葉ははじめて知りました。
      ネットで検索し、なるほどなぁ … と思いました。
      匿名性の高いネットだからこそ、出現してきた動きなんですね。
      私の書いた歌も、分部的にそこに触れていたんですね。
      勉強になりました。
       

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